相葉さんの部屋の ダイニングテーブルの前。

ちょこんと座りながら
キッチンで調理をする相葉さんの背中を見続ける。



「翔ちゃん。
飲みに行ったんでしょ?
なんでご飯食べてこなかったの?」


まるで
ずっと一緒に暮らしている夫婦であるかのようだ。
俺も、
その質問に正直に答える。


「なんかさ。
すごく美味しいもの食わせるって触れ込みの店だったんだけど。
なんか、舌が合わなかった。」


「ん?どういうこと?」


相葉さんが おたまを持ったまま
俺の方に振り返る。



「なんか。
ハーブとかスパイスとかいろんなもので
味が誤魔化されているような気がして。

野菜も なんかごてごて飾り物みたいになってて
食った気がしなくて。
酒ばっか飲んでた。」



「そう。」



また
キッチンの方を向いてしまった相葉さんの表情はわからない。


喜んでいるのかどうなのか。


しかし。

少したち
次に振り返った時には
すでに両手で皿をもち
俺の方へ微笑んでいた。





「できたよ。
さぁ、召し上がれ。

本当は、
アイスバインなら、
もっとかっこいいんだけど。」



「アイスバインって?」


聞きなれない言葉を聞き返す。


「ええとね・・・」



相葉さん曰く
どうもハムではなく塩漬け肉をそのまんま、
野菜と煮込んだドイツの家庭料理らしい。


「これとどこが違うの?」


骨付きハムの骨と
カブ、ブロッコリー、ジャガイモ、人参、玉ねぎ、キャベツなどを一緒に煮込んだポトフで作ったリゾットは、
めちゃくちゃ 美味しい。



「実はですね。
こういう骨って、
わんちゃんに食べさせるために
売ってるらしいの。

でもね。

骨にもいっぱいハムがついてるし。
こうやって
スープにするとものすごく美味しいし。

だから。
翔ちゃんならこういうのも気にしないで
美味しいものは美味しいって喜んで
一緒に食べてくれるかなって・


ちょっと期待しながら
かなりの時間煮込んでおいたんだよね。くふふ。」


はふはふとがっつきながら
上目がちに
相葉さんの目を見ると
しっかりと目が合う。


その目は
俺をいたわるように優しく尊い。



「ってことは。
俺、相葉さんのわんちゃん?」


わざと 自嘲めいて 相葉さんに尋ねる。

相葉さんのわんちゃんなら。
相葉さんが飼い主なら、
もうこのまま何も考えずに相葉さんの意のままでもいいか。

なんてな。


確かに
俺はもう相葉さんに胃袋もがっつり掴まれてて
そして
この人に惚れてはいけないと頭では理解しているのに
もう
抗えないくらいこの人に夢中だ。



それなのに
相葉さんは簡単にそんな俺の思いも否定する。



「そんなことあるはずないでしょ。
美味しいものを翔ちゃんに食べてもらいたいだけ。
っていうか。
俺が美味しいって思うものを
翔ちゃんと分かち合いたいの。


くふふ。
そんなこと話してたら
やっと俺もお腹空いてきちゃった。

俺も隣で一緒に食べていい?」



その時に やっと俺は
相葉さんは
俺のことが心配で
せっかく作った夕飯も口をつけていなかったことに気がついた。








⭐︎つづく⭐︎





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