「くふふ。
こんなにアルコール臭いのに、
まったく 食事してないの?」


盛大にお腹の音を鳴らした俺に、
相葉さんは
茶目っ気たっぶりに微笑む。



「あ、あの。
いや、それは…」



まったく
言い繕うことすらできない。


俺は、悪戯が見つかった3歳児のように
ただ、
ただ
聖母マリアのように慈愛の目で俺を見つめる相葉さんの前で狼狽える。



「おかえり。翔ちゃん。
ご飯、できてるよ。

まずは、
ゆっくりお腹を満たそう。」




相葉さんが、
まるで昔からそう呼んでいたかのように
俺のことを「翔ちゃん」と下の名前で呼び、

そして、
そうするのかが
さも当たり前かのように
俺の手首を軽く握り、
自分の部屋へと誘う(いざなう)。





「うん。ありがと。」


俺は、
やはり3歳児に戻ったかのように、
素直にこくんと頷き、
相葉さんの手が引かれるまま、
相葉さんの部屋の方へ導かれる。




ことん。

ドアの
鍵が開けられ、
相葉さんの部屋に一歩足を踏み入れると、
とても優しい匂いが
そこに満たされていた。












「たまたまなんだけどね。
お肉屋さんで良い骨付きハムの骨が出てたから、
ポトフにしたの。


リゾットにするから、
少し待っててね。」




いつものように、キッチンの近くのテーブルに座って相葉さんが調理する様子を
ぼんやりとながめる。

相葉さんの柔らかい微笑みと
微かに割れる甘い声。
そして、
ポトフの鍋を温める真白い湯気が、


俺の中のアルコールと
かちこちに固まってしまった頭の中の毒気を
優しく溶かしていくようだった。








⭐︎つづく⭐︎







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