「ええっ!」



俺がいるとは思わなかったのだろう。

びっくりした櫻井さんの目は
まるで くぬぎのどんぐりのようにまんまるだ。
その目を覗き込めば
綺麗な 栗皮茶色に縁取られた綺麗な瞳の中に俺が映る。




ああ。
ああ。
なるほど。





店のことがバレたのか。



その驚きを醸した瞳で
全てを察する。


それでも。


俺はこの人を抱きしめることをやめられない。



「なんで。相葉さん。
こんなところに。」


驚いたように俺に話しかける櫻井さんは俺を拒絶はしていない。
それどころか
俺から必死に距離を置こうとしていたところに
俺が現れたものだから
心底驚いている。




それなら。


俺も。


何もない相葉雅紀として、この人に真正面からぶつかっていくしかない。

ごくりと飲み込んだ覚悟は
相手には見せないようにして
本当の気持ちを訴える。




「櫻井さんが、家に来ないからでしょ?
一緒にご飯食べる約束してたのに。

いっぱい連絡したんですよ?
スマホ見てくれなかったんですか?

全然連絡つかなかったから
もう もう
櫻井さんに何かあったのかと気が気じゃなかったです。」




わ。酒臭い。
矢継ぎ早に訴えながらも、
櫻井さんの首に巻きつけた両腕は外さない。



俺を忘れるために
俺と距離を置こうとするために
ここまで酒を煽ってくれたのか。



もしそれが俺の勘違いや自惚だとしても。

もう
この手は離さない。



この人を俺のものにしたい。



「良かった。
良かった。

櫻井さんが無事で。
なんともなくて。」


櫻井さんは抱きついてくる俺をどうしていいのかわからず、
両手はホールドアップのまま、
その手をどこに下ろしていいのかわからないようだ。


それどころか、
俺を見つめて固まったまま
何も言葉を発しない。




常々頭のいい人だとは知ってたけど、
その明晰な頭脳を狂わすほど
アルコールを摂取した?

それとも
どうしていいのかわからないほど
俺のことを大事に思ってくれてる?



悪いけど櫻井さんの気持ちを取り繕ってる余裕は俺にはない。






正解なんてわからない。


櫻井さんが何を考えてるかなんか
俺なんかにわかるはずがない。


俺がわかるのは
俺の気持ち。


櫻井さんが好きで
離れたくない。

その熱い気持ちだけ。



「櫻井さん 好きです。」


櫻井さんの美しい目を見ずに呟くと、
そのまま
目の前の 厚ぼったい色っぽい唇に
俺の唇を押し当てた。






⭐︎つづく⭐︎




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