「はぁぁ。」

大きなため息とともに グラスの酒をあおる。


「何浮かない顔してんのよ。翔さん。

こんなに可愛いお嬢さん、いっぱいいらっしゃってるのに。

お嬢さんたちに失礼だよ。」


隣の 松本にたしなめられようが、

そんなこと、知ったことか。


松本に強制的に連れてこられた合コン。

「これも情報収集のためだよ。」

松本はこともなげに言うけど

俺としたら

気疲れがすることこの上ない。

何が悲しうて、こんな会ったことも喋ったこともない女どもに

酒を注がれ、話しかけられなくちゃいかんのだ。


「櫻井さん、お酒、おつよーい。

かっこいいですー。」

俺のなでた肩にもたれかかろうとしながら

甘ったれた声で話しかけるけど

ずる。

ほら、見ろ。

俺の肩はお前などにもたれかかれるような造作をしてはおらんのだ。

俺にもたれかかってくるようなやつなどいらん。

俺は、まっすぐで正直で

素直にくふくふ笑うあの人が・・・


と、相葉さんをふと思い出す。


いかん、いかん。

あの人は多分敵だ。

だから、あの人の作ってくれる夕飯を諦めてこんなところにいるのに。

なんで思い出しているんだ。


確信が持てないから

まだ松本にははっきりとは言ってはないが、

システムへの侵入のタイミングが怪しすぎる。


そりゃ相葉さんはずっと俺たちの相手をしていたから、

あの人の仕業ではないのだろうが、

それにしても

あの店が現在は一番怪しいのは間違いない。


「翔さん。

ここの食べ物。美味しいでしょ?

翔さんの好みだと思って連れてきたんだから、

食べて。食べて。

今日、翔さんも参加するって言うから

秘書課や 企画課のお姉様たちも

たくさんいて、情報取り放題だからさ。

助かるよ。」


最後の方は、

俺の耳元で小さい声で松本が囁く。


しかし。

ここの店。食事美味しいか?

どうも、

化学調味料まみれというか、スパイスや ハーブで

素材の味を台無しにしているというか。


そうだ。

今日の大人のお子様ランチもそうだった。

あれは、美味しいし綺麗だったけど。

相葉さんが作ってくれる夕食の味じゃない。


相葉さんの作ってくれる食事は

美味しいだけじゃなくて

優しくて

素朴で

まっすぐで

心に染みる。


まるで相葉さんの人柄そのものだ・・・



と、また相葉さんのことを考えてしまっている自分に気がつく。



馬鹿。もう考えるな、俺。


そう相葉さん。

あの人は 敵なんだって。

それにそうじゃなかったとしても

松本が先に見初めていたんだって。

俺が あの人を思うのは横恋慕。

どんなにあの人のことを考えても時間の無駄。

叶わない思いなんだってば。



相葉さんのことを頭の中からかき消したくて

また グラスの中のウイスキーを

ぐいと飲み干せば

からからと 氷が鳴り、

隣の 女どもも

からからと 「わぁ。かっこいい。」と甲高い声を上げる。


俺は、

そんな雑音をかき消したくて

からからグラスを回してわざと氷の音を鳴らしていた。



⭐︎つづく⭐︎



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