「なぁ、翔さん。

なんで教えてくれなかったんだよ。
ずるいっ!」


店に出た途端、
もともとの彫りが深く美しく整った顔を、
きつく歪ませて、
松本がわかりやすく不機嫌になる。


流石に往来じゃ、
言葉にはしなかったものの、
会社の最上階の執務室のドアを閉めた瞬間、
松本が詰(なじ)るように詰め寄ってくる。


執務室もいえども、
ここは俺たち情報調査室の情報管理のため、
機密性は高い。


ドアを閉めてしまえば、
二人きりの世界となるのは、
ありがたくも
こういう時は暑苦しいだけだ。



「仕方ないだろ?
ほんと、俺だっておまえの『まさき』くんが、
『隣の相葉さん』だなんて、
知らなかったんだから。」



「まぁ、そうだけどさ。」  


松本が口を尖らせて、
ひとまず黙る。


相葉さんと、一緒に夕飯を共にする仲だということは、
言わないし言う必要もない。
松本には、不必要な情報だ。



「それてもさ。
俺の大好きな翔さんは、
つれないしさ。

まさきくんは、翔さんの知り合いとかわかると
なんか、
俺弄ばれてるみたいで嫌なんだけど。」


ぎゅ。
どさくさに紛れて俺の背中にしがみついてくる両手を払いのけず
そのまんま、
スマホを両手で持って
さっき 大人のお子様ランチを移した画像を確認する。


「あ、その画像。
珍しいことすると思ったんだよ。
SNSとかにあげる趣味とかないくせに。」


「まぁな。」


そういいながら、
スマホにアクセスした形跡がないか、
いじくってみる。


松本には、盗聴や、不正電波を監視する機器は持ってくなと何度も念を押されたから、
そういうのは仕込まなかったけど、
スマホぐらいならと思って、
わざと使ってみた。


しかし、なんのアクセスも受けていないところを見ると、
あの店は、シロか。

とすると、

あとは
俺と相葉さんと 松本との関係だけだな。



「あのな。
松本。

お前が好きな『まさき』くんは、
俺のただのお隣さんだ。


俺はこれからあの店には
一切行かないから、安心しろ。」



今、優先すべきは仕事。
俺のちっぽけな感情など、
無視すれば良い。


俺は松本ににっこりと話しかけると、
また、
他のデータが荒らされていないかを確かめるために、
キーボードとモニターの画面に必死になって見入っていった。






⭐︎つづく⭐︎







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