「よかった。ほんとに。

終わった。終わったよ。
翔ちゃんっ。」




翔ちゃんの手を取って
嬉しそうに立ちあがろうとした俺に、
ニノが ぽそりと呟く。


「よくねぇよ。まじで。」



「ぜんぶ終わった。
今までのシステムも、
俺らの提供するシステムへの積み重ねも。

ほんと最初っからやり直しだな。」


松本さんが スプリンクラーの水が撒かれているコンピュータや機械を見つめながら答える。






「俺としたら、
機械とか システムとか なくなって、
見張られてるみたいな冷たい感じが全部なくなって万々歳だけどな。」


嬉しそうな大野さんと、
ため息をつかんばかりのニノさんと、
呆然と辺りを見ている翔さんと松本さん。



「え?なんなの?
終わってよかったんじゃないの?」


俺が、
呆然とする松本さんや、ニノの顔をきょろきょろ伺いながら聞くと、



翔さんが
自分で頭を触りながら答える。



「いや、あの暴走したシステムは崩壊したけどな。
スプリンクラーで水撒かれて、
今まで作ってきたシステムは最初からやり直し。

終わりじゃねぇよ。
こっからが始まりだ。」



翔ちゃんが、俺を誘うように腰に手を当てて
ニノのいるオペレーションルームに戻ってくると

同じように、
松本さんが大野さんに肩を貸して、
こちらにやっぱり歩いてくる。





「はじまりでも、終わりでも
どっちでもいいよ。

今からこれ片付けて
ちゃんとやり直せば良いだけじゃないの?


ちょっとまちがっちゃったから、
やり直すだけでしょ。

みんなの思いが生かされる世界。
誰も取り残さない社会。
それを作り上げる良いチャンスじゃん。

それこそが、翔ちゃんたちが手にしたかったものでしょ。」



俺が何気なくつぶやいた言葉。

みんながお互いの顔を見回す。



「うん、まぁ。そういうことかもな。」


みんなの気持ちを代弁するように
ニノが、つぶやいたあと、
みんなの顔を見ていた俺もふと、気がつく。







「あ、そ、そうだ。




保志さんは?


保志さんはどこ?
どこに行ったの?

爆発して保志さんも
壊れちゃったの?


それとも?

それとも?


もう会えないの?」


死んじゃったの?という言葉は、
どうにか、口の中に飲み込んだ。


感情もあって、
そして強い思いもあって
人と同じような行動をとることができる保志さんは、
むしろ人と言ってもいいだろうけど、
それでも、
高度なAIとしての自覚もプライドもある保志さんに
そのような言葉を使っていいか躊躇ったからだ。





「そこは、
超天才かつ めっちゃ優秀な二宮さんの腕を信じなさいよ。

ちゃんと、
爆発する前に
一度こっちのシステムと保志の自我を繋いで、
こちらに取り戻して、
ロボットのシステムと接続を切ってありますって。


保志は、ここ。

ちゃんと 今までの保志のままに戻したよ。



ほら

そこ見て。」



ニノが、指差した方を見ると、

ニノの上着がかけられて濡れないようになっている保志さん。
保志さんの指は、オペレーションデスクのつながっていた端子からは綺麗に切り離されて普通の指に戻っている。




その保志さんの顔を見ると
まるで、
すやすやと安心して眠っている赤ちゃんのように安らかだった。








⭐︎つづく⭐︎






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