「はやく、私たち、
マエストロの一部となれ。

相葉雅紀。」



無数の銀色の触手とともに、
保志が一歩一歩ちかづいてくる。




思わず、
俺の口から出た言葉は、
我ながら、芝居めいていて、
馬鹿馬鹿しいものだった。





「ふざけるなっ!
笑止千万!」



声高らかに叫べば、


意外なことに、
すごい速さでこちらに向かっていた触角が
びくりと身をすくめるように、
その場で固まる。



保志は、一瞬びっくりしたが、
ぐるりとそれを見渡すと、


「ふふん。 小賢しい。

コトバノチカラ か。
そんなもので、
俺たちをやっつけられるとでも?」


眉を十時十分の時計の針の形に
釣り上げて、
言い放つその姿に、

逆に俺は確信する。



馬鹿馬鹿しいかもしれないけど、
確かに、
AIにとっては、
予測不可能な言葉や行動は、
自分の存在を脅かすものなんだ。




今の俺の言葉だって、
俺の感情、憤り、
そして、俺の知識のデータベースから
咄嗟に出てきた言葉。

その言葉や、
俺がこうやって歯向かうことは、
こいつらにとっては想定外。

それがこの反応なんだ。



だとしたら。

やることは一つ。



「お前らAIか、なんかに
俺たち人間がやられてたまるか。

俺の翔ちゃんは、俺が救い出す!


悔しかったら、
俺を捕まえてみろ!」



そう言い切って、
くるりと背中を向けて、
階段に向かって走り出す。




必死に、階段を降りていくその背中で、
保志が、

「MJ!

相葉を追いかけるぞ!

あいつ、生かしておいてやろうかと思ったが、
やはり、
あいつは淘汰されるべき存在だ。


息の根を止めてやる!


二宮は、
マエストロの全システムを使って、
相葉の位置を特定し、
皆を総動員させて相葉の息の根を止めろ!


いいな。」




ばたばたばた。


機械が詰まった重い足音が二つ。
すごい勢いで、
俺の方を向かってきたのがわかった。








⭐︎つづく⭐︎









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