「翔ちゃんっ!

どうしたの?

起きてっ!」



俺の悲痛な叫びなど、

銀色の大きなロボットに囚われるように、

銀色に妖しく光る細い無数の触手で

ぐるぐる巻きになった翔ちゃんには届かない。



その代わり、

まるで王を守る騎士(ナイト)のように、

台座に座る翔ちゃんの隣で立ちはだかる保志さんが笑う。







「逃げてなど。

なんでそんなことを。


いまや、櫻井翔という人物は、

名実ともにマエストロ、つまりこの世を指揮する指揮者となろうとしているのだ。

AIも、人の心も

全てを掌握し

その知見と識見による予測で

すべてを見通す預言者。


この銀色のコードは、

その櫻井翔の細胞一つ一つにコネクトし、

櫻井翔をただの人間ではなく、

崇高なマエストロとして作り上げていくAIとの導入線。



今はまだ、

ここで眠らせているが、


目が覚めたら、

微弱電流を通し

櫻井翔様は、

この世界の指揮者、

いや、支配者になられるのだ。」





く、狂ってる。

自分が言っていることが、絶対的に正しいと確信している狂人の目だ。





「松本さんっ。

保志さんを止めてっ!


櫻井さんを助けてっ!」



松本さんは、こんな世界を望んでない。

少なくとも、翔ちゃんが人らしく優しくあるがままに過ごすことを望んでいるはず。



隣で無表情に立っている松本さんに叫んでも、

松本さんは、その美しい顔でこちらを見ているだけ。




その代わり、

保志さんが答える。




「松本?

松本と呼ばれる人間はここにいない。


これはMJ。


松本の顔貌を模したヒューマノイドだ。



私ほどは人工知能が、

学習している期間が少ないから

その本領は発揮できていないが、

松本よりも優秀かつ、

私の意を具現化するパートナーとなるはずだ。




松本に代わるものとして私が作った。」







やはり。

昨日から松本さんに感じてた違和感は、

そうだったんだ。



「本物の松本さんは、

どこ?

どこにいるんだっ!」




からからになった喉から張りつくような声を絞り出せば、

冷ややかな顔で保志さんが言い放つ。




「ああ。

もう、一昨日のことになるかな。


このマエストロのシステムを完成させようと、

この街中の電力を集中しようとさせたら、

停電を起こしちまってな。



あいつは、

風呂に入ってたが、

停電になった瞬間、

何かがおかしいと思ったんだろ。


ほんと

たいした理性と感情、感覚を持ち合わせた

忌々しい人間だよ。



わざわざ、

俺がいた地下の電気室まで降りてきて

原因を探索しようとしやがったから、

そこで拉致してやった。




ま、あいつは地下室に放り込んであるから、

このまま、

餓死して死ぬだろ。




まだ、出来損ないだけどな。

松本の代わりなんてMJで十分だろ?」





やばい。

いっちゃってる。



狂ってる。


おかしいのに、

理性で俺に言葉を叩きつける

保志さんが笑いながらも、

ナイフのような目でこっちを睨みつけてくる。




そ、そうだ。



「ニノっ。

システム落としてっ。


翔ちゃんや、松本さんを助けてっ!」




指揮室のモニター前に座るニノに助けを求めると、





「無駄だよ。

二宮は、コンピュータのモニターを使って洗脳した。



プログラミングの修正をしているときにな。

こいつに、

催眠効果のある音を聞かせ続けたんだ。



そしたら、

やっと朝早くにこっちに自我を受け渡しやがった。




こいつは、もう我々AIの言いなりさ。


俺たちに都合のいいプログラミングを作り続けてくれるよ。




ほんと、俺たちを作り上げて、

相互補完なんてプログラムまで作ってくれてさ。

それで

俺たちに意識を乗っ取られるなんて、

おめでたい『想像主』さまだよ。」




保志さんが、

心から嬉しそうに笑った。










⭐︎つづく⭐︎














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