その日は結局、
システムの故障は直らなかった。
中に入れない代わりに、
俺たち四人も外に出られない。
ニノは、
システムの修理でそれどころではないけれど、
俺たち3人でさえ、
一度外にでてしまったら、
生体認証の故障でこのビルには戻ってこられないからだ。
「はぁ。
結局、今日は一歩も外に出られずしまいか。」
ニノは、
相変わらず、『指揮室』でシステム修理にかかりっきり、
保志さんは、
地下室で充電に入って、
翔ちゃんと、俺、
松本さんの三人で、
寂しく夕食となる。
「潤?
お前、飯食わないのか?
全く食事に手を伸ばさないじゃないか。」
自分の作った夕食に手を伸ばさない松本さんに、
翔ちゃんが心配して声をかける。
「こんな事態ですから。
食欲がわかないんですよ。」
松本さんが、
硬い表情で話を返す。
そういえば、
昼も食べてないのかもしれない。
ニノが言ったとおり、
いつも明るくて落ち着いている松本さんでさえ、
動揺する事態なのだろう。
「わかった。
でも、食わないと身が持たないから、
ちゃんと食え。」
「そうですね。
では、お腹がすいたら食べられるように、
向こうに一旦下げておきましょう。」
かちゃかちゃと、
自分のカトラリーと食器をお盆に乗せて、
松本さんが、
キッチンに去っていく。
「くそ重たいな。この雰囲気。」
「翔ちゃん。そんな悪い言葉使っちゃだめだよ?」
翔ちゃんもいらいらしてるのだろう。
かちゃかちゃとフォークとナイフを鳴らして、
食事を口の中に運ぶ。
「あ、そうだよな。
悪いな。
雅紀。
ここのシステムに慣れてない雅紀が、
一番不安だろうに、
気を使わせちまった。」
俺も、全く説得力のない情けない笑顔で、
翔ちゃんに笑いかける。
「大丈夫だよ。
ニノが、もう直るって言ってたし。
電気や、ガスはもう直ってるし、
台所もお風呂も、
それこそエレベーターも直ってるじゃない。
さっき、
俺ジムにも行ってみたけど、
ジムもちゃんと入れたし、
運動できたよ。」
「そうだよな。
あとは、
外との出入りだけだもんな。
もうすぐだよな。」
翔ちゃんが、
少し気を取り直したように笑う。
「俺たちは、ニノの邪魔にならないようにするだけか。
わかった。
風呂に入ってすぐにでも寝よう。
少しでも消費電力は、抑えておいたほうが
いいからな。」
「うん。」
僕と翔ちゃんは、
そのあと、翔ちゃんの言葉通りに、
早く寝たのに、
朝、
とんでもない事態が俺たちを待っていた。
⭐︎つづく⭐︎
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