「じゃ、俺、帰るわ。」

食事も終わり、後片付けも終わったので、
大野さんが手を振って帰っていく。


「あ、俺、
そこまで送ってくわ。」


ニノが言うので、


「じゃぁな。よろしく。」


松本さんが手を振り
そして俺らの方を向く。


「俺も先。風呂もらうわ。
いい?」


「あ、大丈夫です。
俺、さっきジムのプールで泳いだ後、
シャワー浴びさせて、もらいました。」


櫻井さんも隣で、
「俺もさっき、ジムでトレーニングした。
ゆっくり風呂入ってこい。
俺ら先寝るから。」


松本さんに声をかけると

「ありがと。じゃ、また明日な。」

松本さんも颯爽と去っていく。


残されたのは俺ら二人。



ソファで隣同士に腰かけて、
そして櫻井さんが話しだす。


「ありがと。雅紀。
ここに来てくれて。」



「え、俺こそです。
櫻井さんに雇ってもらわなければ、
俺なんかここにいることができなかった。」


目を丸くして櫻井さんを見つめると
櫻井さんは、菩薩のような穏やかな笑みで俺を見つめてかぶりを振る。


「違うよ。
雅紀。

確かに、雅紀を雇ったのは俺。

多数の応募はあったけど、
一番野心がなくて 教養があって 穏やかな
俺と正反対の人を選んだ。

俺と正反対なら、
世論を360度味方につけられる。
そんな安易な気持ちだったんだ。

でも
雅紀にあってわかった。
雅紀は、自分より周りの人のことを考えるすごく優しい人だ。

野心がないなんて、
失礼な言い方をしたけど、
それは自分軸ではなく、いつも他人軸で物事を考えるから
野心なんて野暮なものを持ち合わせることなんて思いもつかないすごい人なんだ。

大野さんも言ったけど
俺が学ばせてもらってる。

ありがとな。
雅紀、俺と出会ってくれて。」




「翔ちゃん・・・」


やっと、翔ちゃんって名前で呼べる。
いつも、昼は櫻井さんって呼んでて
他人行儀だったけど

翔ちゃんって呼んだ時の
目を細めて俺を見つめてくれる優しい顔が好き。

この顔は俺しか知らないんだよって
胸が甘くうずうずする。

この目に吸い寄せられるように
この目をずっと見ていたくなっちゃうんだ。



「雅紀。」


翔ちゃんが俺の手を取り、
そして
翔ちゃんの顔が近づいてきて

思わず ぎゅっと目を瞑る。




ちゅ。


翔ちゃんの唇が俺の唇に触れた時



ばちっ。



すごい音がして
あたりが暗闇に包まれる。




「やばい。停電か?
ニノのところにいくぞ。」



「うん。」



きっとエレベーターは、動いていないし、
お風呂に入っているはずの松本さんはすごく不安な思いをしているだろう。



「松本さーん。
ニノさんのところで、停電の確認に行きます。」

お風呂にいるだろう松本さんに声をかけて
そして
翔ちゃんと手を繋いで 手探りで階段のほうへと向かっていった。








⭐︎つづく⭐︎






コメントは非公開です。