「なんか、翔くん。

雰囲気が元に戻ったな。



それも、相葉ちゃんがきてくれたおかげだな。   


ちょっとほっとしたよ。」



夕食の場。

今日は大野さんが、

めずらしく一緒にご飯を食べてくれてる。



俺がマエストロで住み込みで働くようになって、

10日ほど。


昼は、翔ちゃんは保志さんと仕事をしていることが多いから

俺は、13階の執務室で物書きに励んでいることが多い。

松本さんは、CEO執務室と 下の芸術フロアの行ったり来たり。

下の一般職員の執務室もフリーアドレスだから

自宅でのテレワークの職員も多く、

CEO執務室で指示が出せるらしい。


すごいな。

普通の勤めてる人には

働きやすい働き方だけど

松本さんは、その一人ひとりの仕事や働き方まで把握してるってこと。


「プロデューサーとして当たり前だよ。

それくらい。」


って、松本さんは こともなげに笑うけど。


いやいや。すごすぎるって。

本当に尊敬する。


そう考えると、この事務所の専門的で対外的なところは保志さんが

この事務所の広範的に本質をつくところは松本さんが

守ってるんだと思う。


二人ともすごい。


そして、そのことや、

それに生じるニーズを技術面でカバーする二宮さんもすごいアイデアと技術があるんだよな。


大野さんは、

音楽、美術、ダンスのスペシャリストだし。




櫻井さん、大野さん、松本さん、二宮さん。



やっぱ、俺とは違う世界のひとだな。


一緒に食卓を囲む4人の顔を見ながら

ほとほと ため息をつく。





「そういえば、大野さん。

またアトリエで絵を描き始めてくれたんだって。」



二宮さんが、美味しい料理を

肩肘ついてフォークで突きながら

話しかける。



「あ、まぁな。

この頃、このビルの上にあんまり行きたくなかったんだが、

相葉ちゃんが来てくれて雰囲気良くなったしな。


ちょこちょこと小さい作品書いて

その辺に飾らせてもらってる。」



大野さんも、ご飯を頬張りながら

当たり前かのように答える。



そして、松本さんも

美味しい料理を

美しくナイフとフォークで捌きながら、話を引き取る。




「そうなんだよね。

相葉くんが来てくれたから

社の雰囲気が良くなったんだよ。


翔さんは、体調が良くなってきたようで、

目に隈を作らなくなったし、

険のある指示をしなくなった。」



翔ちゃんがびっくりする。



「え?俺、そんなにつんけんしてた?」



俺以外の3人が縦に首を振り、

松本さんが代表して答える。




「うん。保志としか話してなかったからもあるかもしれないんだけど、

話す言葉に余裕がなくて

理性的なんだけど、相手の感情とか立場を考えないで話してる感じだった。


きっと、

話している相手の表情を見る余裕すらなかったんじゃない?」




「うっわ。まじか。

恥ずかし。」


翔ちゃんが頭を抱える。




そんな翔ちゃんを横目に、

今度は松本さんが俺に向かい合って話しかける。



「それにさ。

下の職員にも相葉くん、とても評判がいいんだよ。


あの一般職員執務室でも、

ジムでも、その中のプールやサウナでも

相葉くん、いっぱい笑顔で話しかけてくれるだろ?


それが、すごく癒されて、

落ち着いて仕事に励めるから

効率が上がるんだって。」



「ええ?

俺、わかんないことが多いから聞いてるだけだし、

それに原稿を添削するときに

その事実が合ってるかどうかわからないから確認に行ってるくらいですよ。


それに、

俺が話せることなんて雑談ばっかだし。」



まじで、びっくりして答えると


「それがいいんだよ。」




大野さんがぼそりと答える。







「人は、人に頼りにされる。

それを実感することが何より大事だ。


自分の優越感が上がるだけではなく、

この組織での自分の立ち位置や自己有用感を認知することにも繋がるからな。


それに、雑談や話をすれば、

この人は私に興味を持って接してくれる。

自分はこの人に好意を持ってもらえる存在なんだと、感じるし

それよりも、

人は、他人が自分のために時間を使ってくれるってことがとても誇らしく思えるんだ。


言い換えれば、

自分の承認要求や自己有用感は

他人の時間を対価として使ってもらえることで満たされる。


クレーマーってのはさ。

どうしようもないことで、その人に文句を言うことでその人の時間を奪おうとする。

自分が、その人の時間を支配する偉大な人間だって

思いたいためだけにさ。


それとは逆に

相葉ちゃんは、人と丁寧に接することで、

自分が価値ある人間だと思わせてくれる。

それが、自然にできるすごい人なんだよ。


ほんと

人と繋がることの大事さを

相葉ちゃんから学ばせられたな。」




いつも言葉少ない大野さんから、いっぱい言葉をもらい

俺も今までの卑下していた気持ちが

一気に払拭されたのがわかった。





⭐︎つづく⭐︎






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