「あ。あれ?」



風呂を浴びてきたのだろう。

バスタオルで濡れた髪をぐしゃぐしゃと拭きながら、

バスローブ姿の松本さんがこちらにくる。



「あ、あ、すみませんっ」



俺も櫻井さんの重みを膝の上に感じながら

ちょっと寝てた。


慌てて起きて松本さんに答えるけど、


くぅ くぅう  


すごく疲れてるんだろう。


櫻井さんは可愛らしい寝息を立てて

まだ眠ったまま。





「いや。」


慌てて居住まいを正した俺を手で制して、

松本さんは、

まるで珍しいものを見るかのように

寝ている櫻井さんを上から見下ろす。




「珍しい。

翔さん寝てるんだ。」




「は。はい。

お疲れだったみたいで。」




あたふたしながら答えると、


「いやいや」

松本さんが、手を顔の前で蝶々が飛ぶように美しく振りながら答えてくれる。





「この人さ。

この頃眠れなかったみたいなのよ。


なんていうのかな。

プレッシャーと

世間からの目が怖かったのと

ま。あと保志と真面目な話をずっとしてなくちゃいけなかったってのも

あるんだろうけど。


頭と体もこちんこちん。


ずっと緊張しっぱなしだったようなんだよね。



ていっても、

仕事終わっても、

昔っからのダチが俺たちなんだよね。


俺たちじゃ、半ば仕事がらみの話とかになっちまって、

うまく息も抜けなかったと思うんだ。」




あ、そうか。

そうなんだ。



真面目な人なんだよな。

櫻井さん。



まだすやすやと眠っている櫻井さんの顔を改めて見つめる。

そんな俺たちを見ながら、

松本さんが話を続ける。





「大野さんは、そういうとこ鋭いからさ。


仕事は仕事、自分の時間は自分の時間って

ここに住まないで、

外に家持ってるんだよ。


ここで絵を描けるようにアトリエも作ってあるのにねぇ。




ま、ニノはゲームできるし、

ジムもあるから 全然平気なんだけどね。」



「松本さんは?

松本さんは大丈夫なんですか?」



松本さんは

いつも人のことをお世話して

自分のことなんて後回しにしている感じがする。

お世話好きなのはわかるけど

松本さんも、会社や櫻井さんのことだけを考えて自分の時間がないんじゃないか?




「あ、俺?

俺、こういう性格だからさ。

料理作ったりして

人が笑顔になるのが好きなのよ。


それに

日本のエンターテイメントを最上のものにしたい。

それが趣味でもあり、仕事でもあるからさ。

ここに住んで

芸術に関われるのはこの上ない幸せなんだよね。」



あ、この人。

芸術に心を捧げた人なんだ。

だからここのエンターテーメント部門を通して

ここの事務所を守ってるんだね。




「さ、相葉くん。

流石にここにずっと翔さん寝てると

風邪ひいちゃう。


寝室に連れてってあげて。


俺は、部屋帰って寝るからさ。

よろしく。」



気を使われたのか、どうなのか。


松本さんは俺に優しく手を振って自分の部屋へ戻っていった。






⭐︎つづく⭐︎





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