「相葉さん。
退勤しましょ。
下にいきますよ。」




相変わらず、過集中を起こし
櫻井さんの言葉に埋もれながら、考え事をしていた俺を
揺り起こすかのように
呼びにきてくれたのは、
やっぱり松本さんだった。



「あ。は、はい。」


覗き込む松本さんを下から見上げれば、

「うちの事務所は、
労働時間はちゃんとしたいんです。

何しろ 職住近接どころか、職住一致ですからね。
仕事をしようと思えば ずっとできてしまいます。
だからこそ、
仕事と そのほかの時間はしっかり区別するんですよ。」


俺に手を差し伸べて 立つように促しながら
松本さんが笑う。


確かにすぐ下は住居。

「もしかしたら 7階にはカフェテリア 6階には スポーツジムまであるから
ずっと使えるんですか?」

尋ねれば


「ジムは24時間使えるけどね。
プールもサウナもあるし。

流石に カフェテリアは人件費も材料費も光熱費もあるから
俺たちだけでは使えないよ。」


と笑って松本さんが答える。


「じゃ、食事は?」


松本さんに聞けば、


「ふふ。シェフ松本が腕を振るいますから
お楽しみにしてください。」


松本さんがにっこりと笑った。




・・・



「ただいまぁ。」


12階の自分にあてがわれた部屋で着替えをしていると、
櫻井さんの声がした。

部屋にはすでに昨日の契約書通りに俺の荷物が運びこまれており、整理までされている。
しかし
今日の朝まで住んでいた自分のアパートの部屋より
はるかに大きくて綺麗な部屋には、俺の私物は不釣り合いなことこの上ない。


「おかえりぃ。」

答えたのは、上に上がってきたニノだ。
松本さんは、
キッチンで腕を振るっている。
にんにくの香ばしい匂いと、肉が焼ける匂いから考えると
どうも今日はイタリアンらしい。


「ニノさん。櫻井さん。
お帰りなさい。

あの、大野さんと保志さんは?」


部屋から出てリビングで二人を出迎えると、
ニノが目を伏せる。

「大野さんは、
あんまりこのビル好きじゃないんだよね。
近くでマンション借りて そこで一人暮らししてる。」

あ、確かに今朝そんなことを聞いたような気がする。

その後、翔さんが
スーツのネクタイを人差し指でしゅっとほどきながら
答える。


「保志は地下の機械室で充電中。」


そうか。
保志さんはアンドロイドだ。
いくら高度なAIが組み込まれていると言っても、
動力源がないと動かない。



「ほら。
3人でそんなところで話してないの。
お箸やカトラリー、お皿を並べてくれる?

今日は、
相葉さんをお迎えした記念日なんだから。
ワインも開けて乾杯しよ。」


松本さんが、
お盆いっぱいに パスタやサラダ、お肉やロブスターのグリルなど、
豪華なイタリアンを持って現れた。







⭐︎つづく⭐︎





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