「じゃ、あとはよろしくお願いします。」



昨日と同じように、

秘書の保志さんを従えて、

櫻井さんが政治家としての仕事をしに、

外へ出ていく。




俺の仕事は

直接の上司に当たる執事の松本さんから

指示をもらうことになるのだろう。





「松本さん。

これから僕はどうしたら?」



松本さんにすがるように聞くと、


「先ほどから申し上げている通りです。


あなたは作家。


保志の書いた文字を

「櫻井翔の血のかよった言葉」にしていただきたい。


ここにある原稿を読んでいただき、

万人にわかりやすく、

心に響く言葉に添削をしてあげてください。



私はこれから

下のフロアへいって業務を行います。


また、ここに戻ってはきますから、

安心してくださいね。」



「へ?


松本さんは執事じゃないの?

櫻井さんの身のお世話をしてるんじゃ?



俺の表情はわかりやすいんだろう。

言葉にしなかったのに、

松本さんが答えてくれる。




「さすがに、私も翔さんのお守りばっかりが仕事じゃないんですよ。


ここの事務所 MAESTROの副所長は私です。

政治には直接関わらなくても、

経営コンサルタントや、

芸術プロデューサー。

下で働いている職員のもろもろは、

私に権限委託されてますからね。



簡単に言うと、

DATAの分析に基づく方向性は、

保志とニノ。


人間でしかできない感性や、決断は私の決断の範疇です。


知性と感性のバランスを取ることが私の使命でもあるんです。


では。」




なるほど、

だとしたら、俺がやれることが、

松本さんを助けることになるわけだ。



「わかりました。」



俺は、机の上に置かれた原稿に向かうと、

ペンを片手に、推敲を始めた。












「相葉さん?

相葉さんっ。


もうお昼ですよ。

相葉さん。」



松本さんの声で

はっと我に帰る。




集中してたからか、

12時をまわっていたことさえ気が付かなかった。



もともと

本を読んだり、ゲームをしたり、文章を描き始めたりすると、過集中を起こして時間の観念を無くしてしまう。

原稿を前に、その癖がでてしまったようだ。





「お昼、どうですか?」



下のカフェテリアからもってきたのか、

スモークチキンのサンドイッチと、珈琲をお盆にのせて、

松本さんが持ってきてくれる。




「あ、ありがとうございます。」



頭を下げると、

松本さんが、俺が朱をいれた原稿を覗き込む。



「どうですか?感じは。」



うーん。

何を聞かれているのか、漠然としてるけど、

ひとまず当たり障りのないことを答える。



「やはり、AIが書いた文章ですから、

硬いのと、まわりくどい。

表面をなぞるだけの説明的文章になってしまうところがあります。


あと…」




「あと、なんですか?」


松本さんの目が光る。







「うーん。

私は門外漢なので

どうともいえないですが、

使っているdataがすごく偏ってる気がなんとなくします、


人は、短所と長所、

両方を提示して、

自分が選択したという気持ちになれば、

納得して行動できるものだと思うんです。



どうもデータが偏っていると、

言いくるめられてるとか、

いいことばっかりだとか信じられなくなる。


なので、


どうもこの論理展開が

うさんくさいという感じがしてしまうんですよね。」





「やはりそうですか…」



松本さんが目を伏せた。









⭐︎つづく⭐︎








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