「相葉さん。
こちらへどうぞ。」



松本さんが
執務室に用意された机をさし示し、

二人でソファに座って差し向かいで熱い討論を交わす櫻井さんと保志さんから離れて、そこに座る。




「ありがとうございます。」



松本さんに挨拶すると、



「いえいえ。
これが私の仕事ですから。」


執事である松本さんは、
俺ににこやかに話しながらも、
横目で 論議を深める二人をちらちらと見る。



「松本さんと、大野さんと、二宮さんは、
櫻井さんと昔からのお友達なんですよね。」



少し悲しそうな松本さんの表情が気になって、
何気なく問いかければ、


「そうなんですけどね。」


はぁ とため息をつくかのように、
答えてくれる。



「もともと、
この4人で作った事務所で、
人の感性に響く総合エンターテーメントを提供する事務所のはずだったんです。


ニノが、プログラミング、
翔さんと私が、方向性やプロデュースを、
そして、
大野さんが、得意なダンスや歌や絵をここで発表するはずだったんですけどね。」



「え?大野さんが?」


びっくりして、
俺の机の横に立っている松本さんの顔を見上げる。


大野さんは、ただの警備員じゃないの?

俺の不思議そうな顔に、
松本さんが答えてくれる。





「そうなんですよ。
あの人は、すごい才能の持ち主なんです。

絵を描かせれば、
何億もの買い手がつくし、
歌も一流、ダンスも素晴らしい。

もともと、
この事務所は、
STEAM
つまり、
S science
T technology
E electronics
A art
M music
の融合を目指して作られたんです。

だから、9階から11階の高層フロアに芸術フロアをおいて、
芸術の素晴らしさ、崇高さを
プロデュースするはずだったのに…



なぜか、
このように歪(いびつ)な、
人工知能やICTだけに特化した方向になっていって。

そして、
AIの決定を重視するために、
保志が私と同じような立ち位置
いや、
私を差し置いて翔さんの右腕となってしまった。



大野さんは、そんな私たちに、
愛想を尽かして、
高層の階の方には近寄らず、
警備に専念してしまってる。


そう。

みんな、ばらばらな方向に行ってしまったんですよ。」



松本さんが悲しそうに目を伏せる。


そして、
こっそりと俺の手を握り、



「だから、相葉さん。

あなたの存在はとても大切なんです。


この事務所の方向性を正すためにも、
そして、翔さんを昔の翔さんに戻すためにも。

ぜひ、翔さんをよろしくお願いします。」



悲痛な声で俺に頼み込んだ。










⭐︎つづく⭐︎








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