「さすが、翔さんが選んだ方だけありますね。」




俺が、文を直している様子をみて、

松本さんが、声をかける。






「そうだろ。

AIではわからない感性。

ひとへ伝えるときの他者の背景を思いやる優しさ。

難しいことをわかりやすく伝える知性。

この人にはそれがある。」



櫻井さんが、満足気に松本さんに答えるけど



「あ、それは・・・」



手放しで褒められて嬉しかったけど

思わず遮ってしまう。



だって、

それは隣にいるAIである保志さんに失礼じゃないのか。


俺の微妙な表情を察した櫻井さんは、

保志さんの方に向かって慌てて言い繕う。







「ごめん。ごめん。

保志をけなしたわけではないんだ。


つい保志を人間扱いしちゃってるから

こんな発言をしてしまうんだな。


保志は私にとって、

かけがいのないパートナーだし、

お前の知性がないと私にはこんな仕事は務まっていない。


保志は私を支えてくれるから

このような発言が表立ってできるんだよ。」




「ありがとうございます。

マエストロ。

あなたのような指揮者がいるから

私が安心して仕えることができるんです。


あなたはやはり、

私たちだけではなく

日本、いや全世界のマエストロとなるべきお方です。」





満足そうに答える保志さんを見れば、


保志さんは、アンドロイドだから

表情は変わらないはずなのに、

櫻井さんの言葉で

心なしか口角が数ミリ上がったように見える。






「何をいうんだ。

保志。


私はそんな器ではないよ。


私は私がするべきことをするだけなんだから。」



櫻井さんは、

保志さんに向かって答えた後、

俺に 向かい直す。




「というわけで、

相葉さん。


あなたにお願いしたいのは、こういうことなんです。


保志を中心として私たちはいろいろな策を練り上げて

それを

あらゆる形で広報していきます。


このようにスピーチや、演説や、

時には ネット、文章、いろいろな表現の形態を使ってね。

その時に、

全ての方に私の真意が伝わるよう

あなたに添削してもらいたい。



あなたのように、ネットに毒されず、

しかしながら

多くの書物によっていろいろな見識を得ている人は珍しい、


尚且つ 失礼ですが、

お若いのに苦労もされていて

いろいろな視点で物事を判断できる。


これからの政策が画一的で独りよがりにならぬよう

あなたのような人の意見が必要なんです。」





ひとしきり、

それこそ万人に向けてのスピーチを

俺一人に向けて

身体中が響くような低音を響かせた後、




「潤。

相葉さんの机用意して。

本格的に仕事をお願いしたい。」



松本さんにそう言いつけると、

また、保志さんと熱心に俺にはよくわからない未来の話をし始めた。








⭐︎つづく⭐︎








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