「次は、我がMAESTROの指揮室」




「指揮室?」





11階に下がった瞬間、

松本さんが、おかしなことを言い出す。


司令室とか 中央管理室とかは聞いたことがあるが、指揮室とはなんだ?







「相葉くん。

このMAESTROが、なぜAIや機械に主業務を任せて、

利益を上げているか聞いた?」



いつの間にか

相葉さんから、相葉くんと呼ぶようになったことで、

松本さんに身内と認められたことを嬉しく思いながらも

大野さんに言われたことを必死に思い出して答える。




「えっと。

人間は、その時の気分や環境によって判断を間違えたりぶれたりするから、

BIG DATAを元にして、正確かつリスクのない判断ができるAIを活用した方が良いと。」



「そう、その通り。

このMAESTROは未来予測や人件費削除のために、

機械に任せている。

その MAESTROのシステムを作り上げて、そしてそれを『指揮』する恐ろしい男が

ここに住んでるんだよ。」






「おいおい、まっさん。

なんかひどい言われようじゃない?」





松本さんが、俺に説明している間、

どこから忍び寄ったのか。


いきなり可愛い男の人が松本さんの横から口を出す。





「えっ。ニノ。

いつの間に。」



松本さんがびっくりした声で振り返ると、


ニノと呼ばれた可愛らしい男の人が、

にっこりと俺に微笑みながら、

ふわふわと話し出した。














「こんにちは。

私は、二宮和也と言います。


みんなはニノと呼びますから、

ニノって気軽に呼んでくださいね。


相葉雅紀さん。

お待ちしてましたよ。


あなたのような人材が このMAESTROに必要なんです。

よくお越しくださいました。」





ニノが俺に向かって握手をするために

手を差し出す。


その手を握れば、

無機質なこの空間を作っている人とは思えないぐらい

クリームパンのような柔らかい手をしていることに俺は少し安堵した。










・・・





「ここが、指揮室です。

ここで、安全かつ安心に業務を行う。

そのプログラミングをしただけです。」



ニノが、よくわからないPCやらモニターやらに囲まれた部屋を指差して

快適そうなゲーミングチェアに座ったかと思うと

その反動でくるんと一回転して俺に話しかける。




「すご。」



思わず呟くと




「だろ?」



色々な箇所が映し出されているモニターと、

よくわからない線の上下が映し出されるグラフのような管制室。

それに、

ゲームのコントローラーのような器具に

ミキシングルームのような数々のスイッチ。

訳のわからない部屋を自分の基地だと言わんばかりな

ニノの嬉しそうな顔。





目をまんまるにして

まるでロボットにでも変身するかのような

巨大なモニタールームを見つめていると




「あのさ。相葉さん。

経済数学のゲーム理論って知ってる?」



「はい⤴︎?」



思わず疑問符の語尾が上がる。



「はは。

知らないよね。


ゲーム理論ってね。

どうやったらゲームに勝てるかっていう戦略なんだけどね。

経営にも 人心の掌握にも使われている戦略。


簡単にいうと、

損失を最小限にして 利益を最大にする戦略が

一番いいってことなんだけどね。


それをやってくれるのが

この 『MAESTRO』。」


一番正面にある最大のコンピュータを指差す。



「この事務所だけでない、

この国の全ての方針と福利がこの『MAESTRO』によって導き出され、

翔さんという預言者によってそれが国民にもたらされる。


翔さんと この『MAESTRO』こそが、

文字通り『巨匠』でありこの国の『指揮者』だよ。


俺はその生みの親であり 単なる管理者にすぎない。」



ニノは、それこそ

手のかかるロールプレイングゲームを楽しむかのように

嬉しそうに笑った。





⭐︎つづく⭐︎







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