「お仕事は簡単です。
ここにずっと住み込んで生活してくださること。
そして、
櫻井が話す予定の原稿を、『添削』してくださること。
それだけです。
あとは、このビルの中で好きなように過ごしてくだされば。」
「え?それですか?
文字起こしとかではないんですか?」
募集要領とは全く違う松本の申し入れに、
呆然とする。
しかし、松本は秘書ではなく、
執事と言っていた。
保志のような秘書ではないから、
俺に、自分のような執事見習いをして欲しいと言っているのだろうか。
「そうです。
文字起こしも含めての添削になりますね。」
松本は、口角を上げて話し続ける。
櫻井
松本
保志
この3人の中で、
表情の変化があり、
少しでも感情読み取れるのは松本だけだ。
俺の心のよすがとして、
自然と松本を頼りにしている自分がいる。
「相葉さん。
いま、文字起こしは、進化してます。
昔、速記とか、ボイスレコーダーを聞いて文字起こししたものですが、
いまは、ボイスレコーダーが、そのまま文章として記録される時代です。
そんなアプリや、AIを使えば、
一発ですよ。一発。
それにね。
ここ、マエストロは
ほとんどのものが、
AIを活用して行われているって聞きませんでしたか?
AIを活用して、
櫻井様の演説などの原稿は作られておりますが、
それでは、
正確性や
櫻井翔としての人間味が担保されない。
相葉さん、
あなたには、ここマエストロで、
人間でしかできないことを
補って欲しいんです。
よろしいですよね?」
契約書を指さされ、
そこに示されている金額を見れば、
目を見張るような額。
いつもの賃金の 0が二つは多いか。
どうせ。
一人暮らし。
どこで住むのも一緒か。
「あ。そうですか。」
断る理由もみつからない俺は
契約書にサインをするために、
そこにある高そうな羽付のペンを手に取った。
⭐︎つづく⭐︎
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