「どうぞ」
警備主任の大野さんに招かれたエレベータの中。

黒づくめ かつ かなりの武器を装備した人と二人きりになり
まさかやられてしまんじゃないかという恐怖心に口を思わず開く。



「あ、あの・・・」


「はい。なんでしょう。」


口調は柔らかいが、
表情を崩さない大野さんにおずおずと話しかける。


「すごいですね。
このビル。
人が全くいない。

入り口のセキュリティシステムだけでなく
案内のコンシェルジュもAI。
他のものも全て 機械ですよね。」


そういえば、
人も大野さん以外会っていない。
こんな大きなビルなのに、
働いている人さえもいないのか。



「ああ。」

大野さんはまるで当たり前だというかのように 淡々と答える。


「これが 我が社 MAESTROの信念ですから。
人などというものは微々たるもの。
感情や、間違った拠り所で、
判断を下し、すぐに道を誤ってしまう愚かな生き物。

だとしたら、
できる限りその不安定様子を排除し、
BIG DATAを元に正確かつリスクの少ない判断を行う。
そのような会社ですからね。」


前を向いて まるで丸暗記させらたかのように説明する大野さんに
いくばくかの違和感を感じつつ、
思い起こす。

おかしいな。
俺、普通のバイトサイトで、
物書きのバイトを見つけたはずなんだけど。

そこには
そんなこと書いてなくて、
ただの文章の文字起こしで。


場所だって、
こんなすごいビルの最上階じゃなくて、屋上って書いてあった気がする。
俺としては、
屋上のペントハウスという名の汚い事務所の文字起こし、
そう。裁判かなんかの議事録作りかと思ってたのだが。

どうも勝手が違いそうだ。


ちん。


そんなことを考えていると、
エレベータが、目的の階についたことを静かに教える。



「さぁ。こちらです。

我が主(しゅ)。
きっとモニターで見てたんでしょ。

お客様がお越しですよ。」


エレベータが開いた瞬間。
そこは、すでにホテルのスイートルームかのような豪奢で広々とした空間。



「待ってましたよ。
相葉雅紀さん。

私が、ここのMAESTROの所長 櫻井翔と申します。」



細身のシルバーのスーツに身を固めた美しい男の人が
俺の目の前で仰々しく片手を胸の前に折ってお辞儀をした。





⭐︎つづく⭐︎





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