あ、びっくりした。

あわてて

バックヤードに逃げ込むように入っていく。



「どうした?相葉さん。」   




PCを睨んでいたニノが、

俺の異変に気がついて声をかけ、


ランチを作っていた大野さんは、

黙ってこっちを振り向く。





「あ、松本さんと一緒に来た人。

俺のうちの隣の人だった。」



嘘ではない。

事実を一部話しただけ。


嘘をついているわけではない。


まだ、どきどきしてる

自分の心に言い聞かすように

ニノに答えると、



ニノが、

たくさんカメラが仕掛けてある店内のモニターを睨んで、

櫻井さんの姿を確かめる。



「そっか。

じゃ、松本の同僚だな。


一応、切っとくか。」




かち。

全てのカメラの電源と、

盗聴器の電源を落とす。



カメラのモニター、

情報を盗み取るためのWi-Fi

その他もろもろのスキミングの機械。



この店は ただのコーヒーショップではない。



いろんな形で、

この店に来た客から、

全ての情報を盗み取って、

その客の持っている情報を売り買いしたり、

その会社のサーバーにハッキングしたりするための

IDやパスワードを探る場所だ。





電源を切った後、

ニノが、顎を撫でながら、

自分のPCに向かう。



「一緒にいるのはこいつ。

櫻井翔だろ?」




そうか。櫻井さん。翔って言うんだ。

名前もすごいかっこいい。

芸能人みたい。

でも

ご飯を食べてる時、あんなにかわいいのにね。


ぼうっと考えてると、

ぱちぱちキーボードを打ったニノが、

モニターに櫻井さんの顔を映し出す。



「ほら、櫻井翔。

松本が、五葉ファイナンシャルから、五葉不動産本社に異動してきたその同じ日に

櫻井は、五葉コーポレーションから異動してきてる。



やっぱりおかしいよな。


ついこないだ、同僚になったはずなのに、

仲が良すぎるし。


もしかして、

こいつが、あの凄腕のSEくんかな。」




かちゃかちゃかちゃ。



嬉しそうに、

ニノがキーボードを叩く。



「ビンゴ。


五葉のサーバーゆるゆるになってる。

TRAPは、いっぱい仕掛けられてるけど、

見張られてはいない。


あいつが、

あの会社のゲートキーパーか。」




ライバルが見つかったとばかりに、

嬉しそうなニノと違って、

俺の心は深く沈んでいく。




「こら。まぁちゃん。

お仕事だぞ。


早く、櫻井とやらの、

オーダー取ってきて。


こっちのランチはもう仕上がっちゃうよ?」



「うん。」



大野さんの優しい声かけに我に返って、

今度はオーダーを取るためのポータブルデータターミナルを持って、



ふぅ。


心と息を整えて、

フロアに一歩ふみだした。










⭐︎つづく⭐︎








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