電話を終えてバックヤードに戻ってくると、

大野さんが、

ニノの隣に座りながら、

俺に声をかける。




「どうした?

まぁちゃん。


なんか、ご機嫌だな。」



大野さんの目は誤魔化せない。


この人の観察眼というのか、

野生の勘というのか。




この人が気がついたことは、

必ず正解で、真実だ。


だから、

3人で店をやっているのもある。



大野さんが、自分の勘で、

大体の方向性を決めて、

ニノが数値で裏打ちを取る。

俺は、実働なんだそうだ。


でも

人と人とが触れ合って、

そこから起きる化学反応。

時間軸と

人とのコミュニケーションと、

その空間との

三次元のバランスは、

俺しかミラクルは起こせないと、

二人は声を揃えて太鼓判を押す。



本人としては、

何を言われているのかはよくわからないけど、

デジタルなことは何もできない俺には、

自分に与えられていることをやるしかないのは

わかってる。



その大野さんからの質問に、

舌を巻きながらも、

正直に答える。



「あのね。

引っ越したマンションのお隣の人と仲良くなって、

ご飯を一緒に食べてもらう約束したの。」




「そっか。」



大野さんの目は優しい。



「まぁちゃんが、一緒に食べたいって思ったのか?」



「うん。

その人といると、ほっとする。

ご飯が美味しくなるの。」



大野さんの優しかった目が、

きらりと光を帯びる。




「わかった。

でも、深入りはするなよ。


俺たちの生業(なりわい)がバレたらまずい。

ほどほどにな。」




「うん。わかってる。」



わかってる。わかってるんだけどね。



櫻井さんの食べる時のあの真剣な様子を思い出すと、

ずっとあの姿を見ていたい。


叶わないことだと知っていても、

今日の夜だけでも、  

あの人と一緒にいたい。




そんな俺の気持ちが、

態度に現れてしまったのだろう。





「ま、どうにかするさ。

なるようになる。


まぁちゃんの好きなようにしろ。



だけど、

悪いけど

仕事はちゃんとしてもらうぞ。」



「わかってるよ。」



にっこり微笑むと、



「ありがとな。

これからも

ちゃんと俺たちに報告してな?」



大野さんが優しく微笑むと、

珈琲豆を焙煎するために機械の方に去っていった。








⭐︎つづく⭐︎






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