「櫻井さん。

紅茶がすきですか?

それとも 珈琲?


俺としては、紅茶の方がおすすめなんだけど。」




🎵ふんふんふん🎵



しゅんしゅんと薬罐が鳴る音に

ハミングするように、

相葉さんが、鼻歌を歌いながら、

お茶の準備をする。





「じゃ、紅茶で。」



本当は、カフェラテとか、

珈琲好きだが、

こういう時にはお薦めに従った方がいい。




「えっと、

ご指定ありますか?

なんか好きな銘柄とか?」



「へ?」



紅茶なんて、わかんない。

珈琲は仕事の友だが、

紅茶は優雅な貴族の飲み物のような気がするし。





きょとんとした俺の様子を見て、

すぐさま相葉さんが言いかえる。




「えっと。

櫻井さん。


いつもは甘いものとかたべる?

食べないよね?


いつもは、珈琲派?


カフェラテかな?」




立て続けの質問は、

なんか俺の私生活を見てきたようで、

びっくりする。




「あ

甘いものとか食べることはあんまりないかな。


テイクアウトのカフェラテとかは飲むけど、

そんなに他には飲み物とか飲まないし。」




「やっぱりー。」



そう言いながら、

手早く カップとティーポットを出し始める相葉さんは、

どこかの喫茶店のマスターのようだ。




「あのね。

ちゃんと、水分と睡眠は取らないとだめよ。


ストレスもたまるし、

病気にもなっちゃうからね。


櫻井さん、

あんまり食事にも興味ないみたいだし。」



くふくふ笑いながら、

ポットにお湯をそそいでいく相葉さんは、

まるで若くて腕のいい魔法使いのようで、


その美しい所作に思わず俺は見惚れてる。




「はい。これ。」



大きな木彫りのお盆の上に、

二つのティーカップと、

お皿に乗せたフィナンシェ。




お盆から俺の前に置かれたのは、

綺麗な絵柄のティーカップに入れられた相葉さんの髪のような色のミルクティー。





「これは?」



相葉さんの方を見れば、


「アッサムにあっためた牛乳を入れてミルクティーにしました。

こくもあるし、

フィナンシェとかと合うかなあって。


あ、カップは、

ミルクティーが似合うように

ロイヤルコペンハーゲンのものにしました。


あんまり紅茶飲まないみたいだけど、

ちょっと飲んでみてくれますか?」




まるで、レースでかがられたように繊細な絵柄のティーカップを手にして、

紅茶を口にする。





「美味しい。

こくがあって甘みがあるのに、

珈琲みたいに苦くない。」    






なんなんだ。

相葉さんは。


俺のことを全て知っているかのように、

完璧に俺の好きなものを

魔法使いのように差し出してくる。





思わず、感想を口にすると、







「くふふ。よかった。

お気に召して。


おかわりもできますよ。」




俺の目の前のミルクティー色の髪の魔法使いが、

ティーポットを指差して

満足そうに微笑んだ。










⭐︎つづく⭐︎









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