「あら。やだ。」



ニノが、PCのキーボードをものすごい勢いで操作して、ばたんと画面をブラックアウトさせる。




「どしたの?」



ぽとぽと と 琥珀色の液体が

フラスコに落ちるのを見ながら、

珍しく慌ててるニノに聞く。





「ものすごい腕のハッカーに会った。

いや違うな。

SEか。


どちらにしても侵入しようとした瞬間、

気づかれた。」




まずい状態のくせに、

ものすごい好敵手にあったかのように

ニノは嬉しがって、

俺に報告する。




大野さんは、豆の仕入れ。



本業なのか、副業なのか。


どちらにしても、

大野さんが仕入れた豆は、極上であることは間違いない。





「どこに侵入してたの?」




「ん?松本さんが、行ってる五葉不動産。

なんか、気になってね。

人事データベースじゃなくて、

もうちょい違う方から探ってみようと思って入ってみたんだけど、

すぐTRAPがあって、

引っかかっちまった。」




「珍しいね。ニノが、そんなTRAP破れないなんて。」



ニノは凄腕だから、

普通、誰にも気づかれずに、

ネットワークに忍び込めるのに。



ニノが罠に引っかかっちゃうなんて、

相当な凄腕。

ニノが嬉しがるのも無理はないか。




「それで、ちゃんとバレなかったの?」



「そこは大丈夫よ。

何個もネットワークかませて、入ってるし、

それに足跡は残らないようさっさと消えたから。


でもなぁ。見つかっちゃったから、

警戒されちゃうなぁ。」




うん。

松本さんもいるし、

あまり迷惑はかけたくない会社だしね。



「うん。あそこは諦めた方がいいよ。」



俺が真面目にニノに言うと、



「ほんとにそう思う?」


ニノが、俺の方を見る。




「へ?どういうこと?」



何を問われているのかわからず、

問い返すと、



「松本さんの会社に凄腕のSEがいること。

ついこないだ現れた松本さんが、

図々しくまぁくんにアプローチしてくること。


そして、


何よりおかしいのは、

こんなに松本さんがまぁくんのところに来てくれるのに、

まぁくんの連絡先を知ろうとしないどころか、

この店内で、

一回もPCや、タブレットはおろか、

スマホでさえ

開こうとしないこと。」



「確かに。」




この店には、

人に気がつかれないように

数多くのカメラなどが、

壁や天井に仕込まれているけれど。


そんなことは知らないはず。



それなのに、

珈琲を飲んで休憩しているときに、

一回たりとも、

スマホを取り出して、

チェックしないなんて。



急に会社から連絡が来ることもあるはずだし、


この情報社会のなか、

ありえないことだ。





ニノが、

顔を引き締めて俺を見る。




「まぁくん。

気をつけろよ。


あいつ。


ただもんじゃねぇ。」




「わかった。」



ニノの珍しく真面目な顔を見て

俺も心の底を戒めるように、顔を引き締めて頷いた。









⭐︎つづく⭐︎








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