「ごちそうさまでした。」

おもいもかけずにありついた美味い飯。
ふかぶかと頭を下げながら、
箸を置くと、


「お粗末さまでした。」

俺ににっこりと微笑んだ後、
目の前の皿に手を合わせるのは、
持って生まれた育ちの良さなのか。
    

ミルクティー色の髪の、
涼やかな顔立ち。
一見、ちゃらいのに、
目の前のことにきちんと感謝する態度。

その品の良い所作に、
思わず ほうっと目を奪われる。



「あ、あれ?
俺、なんか変なことしました。」



俺が見つめているのに気がついたのだろう。

慌てて、相葉くんが俺に聞く。



「いや。
本当に美味しいもの食べさせてもらったなと
思って。

なんか、お礼でもしなくちゃなと。」


見惚れてたなんて、
口が裂けても言えない。

それでも、すらすらと口についた言葉は、
俺の本心なのだろう。



「え?いいですよ。

俺が迷惑かけちゃったんですし。

それに、
俺、一緒にご飯食べられて嬉しかったです。

俺、ご飯作るの好きなんですけど
いつも一人分しか作らなくちゃいけないと、
品数も作れないし、
作ったものも余らせちゃって、
おんなじものを何日も食べなくちゃいけないしで、
つまらないんです。
 
それに、
「あ、これ。
美味しい」って、
すっごく美味しいもの作っても、
俺一人しか その美味しさがわからなくて、
一緒に美味しいっていう気持ちを
分かち合う人もいなくって。


だから、
今日、本当に櫻井さんが美味しそうに俺のご飯食べてくれて、めちゃくちゃ嬉しかったんです。」



心からの本心なんだろう。
きらきらとした目で一気に捲し立てる相葉くんに、
圧倒されそうになるが、

いやいや、
その言葉を鵜呑みにしたらいけないのだ。



「そんなこと言ったって、
食費だって、手間だって、時間だって
かかってるでしょ。


俺にお礼させて。

ね?」



「あ。」



相葉くんの顔が真っ赤になって、
口がぽかんと開く。



「え?」


気がつくと、
俺は相葉くんの手をしっかりと両手で握りしめていた。








⭐︎つづく⭐︎








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