で、なぜ?

俺はここに。




🎵ゆあま そーそー いつも すぐそばにある🎵


と、鼻歌を歌いながら、

キッチンに立つ彼の家のリビングに座らされて、

缶ビールなど

飲まされている。




俺は、

ただ缶詰を拾っただけなんだが。




しかし、俺の唯一の食糧である

焼肉丼が無様にコンビニのレジ袋の中で、

粉砕されたのも確か。



それを救ってくれるという

この優しい彼の申し出にのってしまったのも、

固辞する俺の腹の虫が

ぐうと

鳴ってしまったからなのだ。




そう。

これは、単なるインシデント。

アクシデントでは決してない。


悪いのは、あのサバの缶詰であり

俺の腹の虫でしかない。



いくら、食に興味を持っていないと言っても、

冷蔵庫の中に、水とビールしか入っていない

俺のうちの冷蔵庫には、

腹を満たす食糧が一つも入っていないのだから仕方ない。




しかも、最悪なことに、

この 相葉くんというらしい彼の家は、

俺の隣。



俺が「櫻井」という名前さえ、

しっかりと彼に知られてしまった。



プライベートで、

関わる人を作るべきではないと知っているだけに、

俺は俺がここにいる理由を作るために、

必死で、

頭の中で理屈を捏ね回す。





「はい。できました。」



ほどなくして戻ってきた相葉くんの手には、

大根の煮物と、

チャーハン。




「これは?」



不思議に思って聞くと、



「こっちは、櫻井さんが拾ってくれたサバの水煮と、大根で作った煮物です。

レンジで作ったからちょっと味染みてないかもしれないですけど。


あと、こっちは、櫻井さんの焼き肉丼をアレンジして、焼き肉チャーハンにしました。


どうぞ。召し上がってください。」




「あ、ありがとう。」



勧められるまま、

煮物を一口、口に入れる。





「あ、美味しい。」




久しぶりに食べた

人の作った温かい食べ物に、


心が溶かされたように

ぽろりと、

一粒涙が出た。









⭐︎つづく⭐︎










コメントは非公開です。