「ただいまぁ。翔さん。」

五葉不動産、最上階の執務室に、
ご機嫌さんで松本が戻ってくる。

その浮かれぶりと言ったら、
まるでダンスのステップを踏むような足取りだ。


「なんだ。お前。
いい女でもいたのか?」



PCの画面にしがみついたまま、
振り返りもせず答えてやる。


もともと、外交的なやつだから、
足で情報を取ってくるタイプだ。
と、いうか、 
ここに入社してまだ3日だというのに、
社内を歩いているだけで、
女の子たちが近寄ってきて、
社内の情報のほとんどを、もう把握してるんじゃないのか?

画面や、推測から情報を収集する俺とは
タイプが違うからこそ、
相性はいい。



「まさかぁ。
あの ちょっと気になってた喫茶店行っただけだよ。」



松本が、
俺の様子などお構いなしに、
背中に引っ付くように抱きついてくる。


いわゆるバックハグってやつだ。

PCを叩いて、データ収集している俺には、
邪魔なことこの上ない。


「ああ、あの店?
どうだった?」



「ふふ。
すっごく、可愛い子いた。
まさきくん。
苗字かな?名前かな?
たぶんイントネーションからいったら、
名前なんだろうな。

素直そうな、すごくいい子。

そんで、淹れたての美味しい珈琲飲んできた。」


松本は鼻歌を歌いそうな感じで、
俺に答える。


「そんなこと聞いてんじゃねえよ。
なんか収穫あったのか?」


「くふふ。翔さん。
他の子の話したから、
妬いてる?」



松本が俺の顔の横に自分の顔を寄せて、
頬を擦り寄せるようにする。


「おまえなぁ。
いい加減にしろよ。

俺を揶揄うのもいい加減にしろ。

大体、
俺とお前は、違う会社から、
入ってきて、
3日前に会ったことになってんの!

お前は、五葉ファイナンシャル。
俺は、五葉コーポレーション。

それなのに、こんなに馴れ馴れしくして、
他の奴らに見られたらどうすんだよ。」


松本は、
あいもかわらず俺の背中にべったりとひっついて、
文句を言う。



「もう、つれないんだから。
俺、翔さんのことマジで好きなのに。

ねえ、櫻井翔さーん。

なんで、
振り向いてくれないの?

こっち向いてよぉ。」


はぁ。
こいつとは、ずっとこんな調子だ。


からかわれてるのはわかるが、
ずっとこんなふうに「好きだの。」「愛してるだの。」「本気だ」などといって俺に絡んでくる。

ほんと、これさえなきゃ、
凄腕の相棒なんだが。




「ああ、わかったから。
今日の収穫、話せ。」


「はーい。」


松本の方を向くと、
松本が真面目な顔で話し出した。










⭐︎つづく⭐︎







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