「今日のおすすめってなんなの?」


その人は、まるで大学教授が詰問するように、
メニュー広げたまま、
俺に質問する。


「あ、今日はマスターが、
いいマンデリンが入ってるって言ってました。
少し酸味が強いって言ってましたけど。

逆にお客様はどんなコーヒーがお好みですか?」




先ほどまで真面目な顔つきだったお客様が、
一瞬
きょとんとした顔になる。



あ、かわいい。

めっちゃ顔のきついイケメンさんが、
表情がでるとこんな可愛くなるんだ。



心の中でくすりとしながら、
ゆっくりと説明を始める。



「あの、コーヒーって産地や豆によっても味が違うんですけど、
煎り方によっても味が違うんです。
酸味が強くフルーティなのが浅煎りで、
苦味が強くコクがあるのが深煎りなんです。

なので
甘いのがいいとか、
フルーティなのがいいとか、
ミルクが合うのがいいとかあれば。

聞かせてもらえたらなって。」




ローストにも
ミディアムロースト、ハイロースト、シティロースト、フルシティロースト、イタリアンローストなどがあって、
豆も産地によって
エレガントな味わいや、明るい酸味のもの、
また、癖のあるものがあることなどは、
黙っておく。
あの大野さんのこだわりを、 
この人に伝えてもきっとこの人が戸惑うだけだ。
 


にっこりと笑うと、
その人も一瞬びっくりとするが、

気を取り直したのか、
俺に微笑みかける。



「えっと。君の名前を聞かせてくれる?」
 

へ?
いきなり、名前を聞かれて、
びっくりして、
声が出ないと、


逆に、その人が
俺からアドバンテージを取ったように
俺に微笑む。




「あ
俺が名乗らなくちゃね。
俺は、そこの五葉不動産の松本。

ここに異動になったばかりなんだ。

君の名前は?」



「あ、まさきっていいます。」


イケメンの怒涛の質問に圧倒されながらも、
名前だけを答えると、
まさきなら、名前なのか、苗字なのかは、
聞くだけではわからない。



「じゃ
まさきくんスペシャルください。

君のおすすめを飲みたいです。」


松本さんが、
それこそ万人が堕ちてしまうような笑顔で笑った。









⭐︎つづく⭐︎









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