「いらっしゃい。」

声をかければ、
その凛とした美しい人はポケットに手を突っ込んで、
店内をきょろきょろしながら席を指差す。


「ここ、座ってもいい?」


「はい、どうぞ。」


不思議な人。
普通は、お客さんにそんなこと聞かれない。


大体のお客さんは、
だまって自分が選んだ場所に座るんだけど。
 


その人は、
二人がけのテーブルに腰掛ける。



なぜなら、

うちの店は、
都心の店だけあって、
スマホやPCの充電ができるようあちらこちらにコンセントがあるからだ。




当然 Free Wi-Fiもあるし、
店内での通話スペースもある。


だから一人でお越しの方は、
どちらかと言ったらコンセントがないテーブルよりも
コンセントが目の前にあるカウンターや、
大きなテーブルの方を望まれるんだけどな。



あ、そうか。



もしかしたら
そんなビジネスマン仕様も、
うちの店のリピーター率が多い理由なのかもしれない。





「どうぞ。」


うちは 
巷のコーヒーショップと違ってカウンターサービスではないから、
お水をこぼさないように丁寧に置くと、


「あ、ありがと。」

メニューを取りながらその人が微笑む。


うっわ。
すごい 美形。

太い眉に
くっきりした目鼻立ち。
意志の強そうな美しく大きな瞳が俺を見る。



「あのさ。
ここ。何が美味しいの?」


「あ。珈琲です。
オーナーの趣味で色々な豆取り寄せてます。」


普通に答えると、


「ふぅん。不思議だね。
pot というお店なのに。」



何気なく目の前の美しい人がつぶやいた言葉に
どきりとして、
慌てて笑顔で誤魔化した。







⭐︎つづく⭐︎





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