「なにがおかしいっ?」

狂ったのか?
いきなり高らかに笑い始める金時を、
潤はすこし、後ろに体重をかけながら伺う。


「松本、貴様ごときの貧乏旗本が、
私を斬れるとでも。」





潤が公儀隠密であることを知らない金時は、
高らかに松本に笑い続ける。




こいつなどに素性を明かしても仕方がない。
しかしながら、
ご公儀に仇なすものを取り除くのが己が役目。

潤が、
黙って刀を振り上げようとした時だった。




「待て。松本。」



後ろから、
松本を止める静かな声がした。





「上様っ。」


振り返ると智がいる。


「ああ、上様、なぜここにっ。」
狼狽える金時を無視して智は松本に言いつける。





「なぁ、松本。
お前の剣をこんな奴に使うんじゃねえ。
お前の綺麗な刀が、
汚い血で汚れちまう。」



「上様。」

静かに頭を下げる潤のそばで、
金時が口汚く智に言い募る。


「上様、側用人である私の言を信じず、
この松本のことを信じなさるんですか?

何も証拠がなく、
私のことを上様にたてつくものとして、
斬り捨てようとしているのですよ。

私は、
ここにいる 隠元と医者の遠藤が悪巧みしているのを諌めようとしていただけで。」



必死に言い訳をする金時に、
智の目が大きく開かれる。






「おい。おいっ。
しゃらくせぇぞ。

今更、そんな具にもつかない言い訳かいっ?

春野豆後藩の嫡男拐かしや、
永野への毒殺未遂。
それは、櫻井と雅が調べあげ、
そして、
それがお前と隠元の仕業であること、
芸者の和奴がみていたこと。

ちゃんとこっちも調べ済みよ。

お前、
この菓子折りに見覚えがないとは言わせねぇよ。」





ぽんっと
智が投げた黒い菓子折りは、
床についた途端蓋が開き、
じゃらじゃらと、
饅頭の下から小判が溢れ出す。




「くっ。」

唇を噛み締める金時に、



「ここまで証拠があがってちゃ、
もう申し開きはできねぇなぁ。

やることは一つじゃないのかい?」



智が、
にやりと笑いかけると、

金時が、
首を項垂れながら、
自害のための短刀をのろのろと自らの懐より取り出した。




⭐︎つづく⭐︎