そして、こちらは松本の屋敷。
駆け込んできた櫻井と、
それが心配で駆けつけた大工の智が、
座敷で膝を突き合わせて話をしている。



「ほんと、あんたが絡むと碌なことにならないんだが。」




智を睨みつけながら、
櫻井が愚痴をこぼす。




「ま、そういうなって。
こういう性格なのは、
翔もよくわかってんだろ?」



意に介さない智は、飄々と返すが、
ぎろりと櫻井に睨み返される。





「あのね。
あなたが、こういうとこに
町民のふりをして、
いけしゃあしゃあとくるから、
話はこんがらがってくるんです。

自分の身に何が起きようとしてるか
わかってないんですか?」




智は、
鼻の下を擦りながら、
櫻井の話など耳から耳へと聞き流す。



「だってさ。
ちゃんと街に出なきゃ、
何が起こるかわからないじゃん。

今度のことだってさ。
松本が教えてくれなきゃ、
俺はわからなかったわけでさ。


そしたら、
自分の目でちゃんと何が起きてるか確認しないとなぁ。」




はぁと、
撫でている肩をさらに撫でさせて、
息をつきながらも、
櫻井は話しかける。




「で、春野豆後藩はどうなるんですか?」

「お取りつぶしの話は確かに出てる。
殿が伏せて、
余命少なく、
嫡子の存在も危うく
お家断絶の危機。
禄少なくも旗本としての対面を保つため、
家老の隠元を取り立てて御家人とせよと。

また、
その折り、
御殿医の遠藤が名医なので、
お側に取り立ててほしいと。」


智が息を吐くように一気に話をすれば、
櫻井もにやりと笑う。



「ふうん。
家老の隠元のねらいは、
藩ではなくて、あなたなんだ。」


櫻井の揶揄する言葉に、
今度は智が櫻井を睨みつける。



「元はと言えば、
翔。

お前が、俺のかかりつけ医にならなかったからだろうが、
あんな屋敷に閉じ込められるのは真っ平御免とか言うから、
こんなことになるんだろっ!」



珍しく語気を荒げた智に、


「ははは。
それを言うなって。

いくらあんたの命令でも、
俺は俺の人生がある。

俺も、街のみんなを診なくちゃいけないし、
それに、
俺にも手がかかるやつが一人いるんでな。

そいつの面倒を見るためには、
こうやって気楽な町医が一番なんでね。」

櫻井が豪快に笑った。




⭐︎つづく⭐︎