美術室準備室で、
また自分の絵を描き始めてしまった智くんに、
「じゃ、俺音楽室でピアノ弾いてる。」
後ろから声をかける。
「おう。ほどほどにしとけよ。
サッカー部にも、
ちゃんと行ってやれ。
お前がいないと、あの部は勝てねぇ。」
こっちを向かずに答える智くんに返事をする。
「今日は、サッカー部休みなんだよ。
野球部にグラウンド取られちまった。」
「わかった。好きにしろ。」
「うん。好きにする。」
こういうとこが、
智くんは好きだ。
しのごのいわない。
説教しない。
俺の言った言葉をそのまんま受け取ってくれる。
音楽室に移って、
ピアノに向かう。
最初はありきたりなクラシック。
やっぱり音楽室だからなぁ。
こういうとこで、
俺の真面目さがでちゃうけど、
勝手にピアノを弾かせてもらってる負目がでる。
調子を乗ってくると、
好きな歌。
知っている歌を適当に弾き始める。
ずっと、弾いてると、
嬉しくなる。
心が解放される。
自分の気持ちを曲に合わせて表現できることの喜びに溢れてくる。
最後は、
適当なメロディーに合わせて、
適当な言葉を口ずさみ始める。
♫
…
『廊下を走るな』
『陰口たたくな』
『飯は残すな』
『挨拶忘れるな』
そういうことは、
あの頃誰もが教えてもらっているはずなのに
忘れて生きてる
探して泣いてる
…
そういうことは、
あの頃誰もが教えてもらったはずなのだ
…♫
ぱちぱちぱち
へっ。
いきなり音楽室の後ろのドアから拍手がする。
智くん?
いや、違う。
智くんなら美術準備室にいるから、前のドアから来るはずだし、
大体俺のやることに、拍手なんてしない。
拍手は評価だ。
そんなことをする人じゃない。
じゃ、誰だ?
くるり。
ピアノを手に置いたまま、
くるりと振り向くと、
そこには相葉がいた。
⭐︎つづく⭐︎