年末年始は剣道防具を着装をしての剣道稽古ができないため、興味があった山口貴由先生のマンガ『蛮勇引力』の愛蔵版の上巻を電子書籍で購入し、上巻を読み終えました。
山口貴由先生が私たちに伝える『蛮勇引力』のメインテーマは、身体だけでなく心も神機力に侵蝕され惻隠を失うことの恐ろしさを、権力を悪用する役人の排他的で閉鎖的な醜悪な態度と、失業者に対してあまりにも酷すぎる腐敗した権力のおぞましさが明瞭な描写を通してが何度も描かれており、「科学や機械を過信し、盲信し、狂信してはならない」と「科学を悪用し、差別や虐待をしてはならない」と警鐘を鳴らしながら語られています。
『蛮勇引力』において、神機力という言葉は、「魔法と科学は似ている」という意味と同時に、「神の力というのは機械と同じで無慈悲で冷酷な恐ろしいもの」だと示唆しています。
故に神も科学も過信せず考え続けなければならない、と。
また、『蛮勇引力』は「マンガに必要なのは風刺と告発の精神」と語られた手塚治虫先生の想いに対する山口貴由なりの敬意が込められており、山口貴由が好きと語っていた『鬼滅の刃』の次は何を読みたいか迷っている方にもおすすめで、『鬼滅の刃』の鬼舞辻無惨が作ろうとした世界が如何なるディストピアになってしまうのか?という考察も可能な出来です。
『蛮勇引力』の登場人物でも、朝露歩と矢倉シンイチの2人は科学文明に対する疑問を持ち、現実世界の我々と『蛮勇引力』の世界の繋ぎ手であり、差別や虐待を嫌悪する人々であるから私は好感を持つことができましたし、彼らは『鬼滅の刃』において禰豆子や珠世や愉史郎や浅草の人に相当します。
『蛮勇引力』を読みながら、自粛警察という非寛容で冷酷で自己中心的な無能はウイルス未満だから『蛮勇引力』の主人公・由井正雪に痛い目に遭わされても仕方ないですねと思いましたし、私自身は『蛮勇引力』の登場人物の立場で一番近いのはヒロインである朝露歩かな、と感じました。
福井晴敏の『機動戦士ガンダムUC』に対するアンチテーゼでもあります。
この点も『鬼滅の刃』で形を変えて描写されていたから若先生は『鬼滅の刃』に興味を持ち、今でもウイルスより恐くて醜くて邪悪で冷酷で残虐なのは人間の差別や虐待をする傲慢さと泣き寝入りを強要する恐怖政治がもたらす思考停止だと警鐘を鳴らし続けていることを想起できます。
ディストピアに抗う意義と意味の重さは『ONE PIECE』や徳広正也の『狂四郎2030』とも重なります。
手塚治虫先生の漫画が好きな方々だけでなく、村上もとか先生の『六三四の剣』や、宮崎駿氏の原作マンガ版『風の谷のナウシカ』や、永井豪先生の漫画や、島袋光年先生の漫画や、尾田栄一郎氏の『ONE PIECE』が好きな方は是非読んで欲しいのが『蛮勇引力』です。
『蛮勇引力』愛蔵版の下巻も買わねば。