「黒岩さんとは会ってるの」
婚約者の黒岩は腕利きの外科医だ。
毎日手術に追われ、あまり会えてない。
でもその方がいい。
無理に時間をつくってまで
会いたいとは思わない。
「しょうがないわね……。
まあ、いいわ」
こんな気持ちで本当に結婚していいのだろうか。
みさきの気持ちは揺れた。
「マリッジブルーよ。心配ないわ。
あなた、心療医なんだから、自分で治療しなさい」
そう言った後、小春はぶきみな笑みを浮かべた。
結局話しはそこで中断された。
みさきは小春に従うしかなかった。
それは負けたわけじゃない。
任せてもいいと、その時直感したからだ。
母が考えもなしに
丸投げする筈はないと信じているからだ。