ただココロにだけは見えていた。
奇跡の瞬間の真実のすべてを。
「ねえ、あれって隼人じゃない?」
最初、みんなにも見えてると思ってた。
「ゴール下に立ったるでしょ」
「何言ってるのよ。隼人は病院じゃない」
それは分かってる。
乃亜には見えてないのだ。
いや、誰にも隼人の姿は見えてないのだ。
でもココロには見えるのだ。
そう、あれは事故の起こった日からだ。
試合のたびに幽霊選手がいる。
幽霊部員の隼人が幽霊になって、試合に出ている。
相手のゴール下にいつも立っている。
そして隆平の遠投のすべてをリバウンド。
ダンクシュートでゴールを決めていた。
幽霊となった隼人の姿が見えてないみんなには、
隆平のはなったシュートは魔球に見える。
曲がり方が不自然でも、受け入れてしまう。
どんな3ポイントシュートだって決まってしまう。
隆平の投げたボールは、
すべてがまるで意志を持っているかのようにゴールする。
成功率100%の3ポイントシュート。
いつしか隆平は有名になっていった。
そしてそこそこイケメンな隆平は
学園のヒーローになっていた。
女子たちも隆平を羨望のまなざしで見るようになっていた。
なんということだ。
ブサイクな隼人だと誰も応援しないというのに。
隆平のシュートが決まるたびに、
悲鳴にも似た声援が起きている。
隆平はその声援にまんざらでもない顔をしてる。
乃亜はそれに嫉妬するわけじゃなく、
自分のことのように喜んでいる。
そして県大会で初勝利。
それをきっかけにチームの快進撃が始まった。
今度の恋は乃亜にしては珍しく長続きしている。
一人、浮き気味で、「女、松岡修造」とあだ名をつけられても、
くじけることなく隆平を応援し続けていた。
隆平の変貌はすべて恋の力だとみんなは思った。
隆平が変貌したのは乃亜と付き合い始めてからだ。
みんながそう囁き始め、乃亜はご機嫌だった。
これこそが乃亜の恋の長続きの原因だろう。
隆平が活躍すればするほど、乃亜の評価も上がってる。
それに乃亜はまんざらでもない表情をしてる。
確かに認めるよ、乃亜の恋はいつだって一生懸命だ。
周りを振り回しても、貫き通す姿は賞賛ものだ。
だからこそ今度こそ長続きしてほしいとココロは思った。