サロンドートンヌで賞賛された愛海。
海外から留学の誘いが来ていたのだが……。
「先生、どうしたんでしょ、愛海さん、すっかり画風が変わってしまって」
愛海のそれまでの画風が変異したのは、若菜ちゃんと会ってからだった。
その腕を嘱望され、海外留学の話が進んでいた矢先の出来事だ。
将来を保証されたと言っても良いはずなのに……。
なのに今、愛海の画風が大きく進路変更をし始めていた。
それまでの妖精たちが住んでいるような森を描いたようなホノボノとした画風が、まるで森に野獣を放ったあとの妖精たちの断末魔みたいな支離滅裂に画風に変わってた。
「いったい、あの子に何があったんでしょ」
留学前に開かれた個展で披露された新作の前に多くの専門家が立ち止まり、うなり声を上げていた。
「あの賞は保守的じゃないですから……」
それがせめてもの擁護派の言葉だった。
「本当に大丈夫なんでしょうか」
口々にみんな心配した。
「賞とった絵とあまりにも画風が変わってません」
「まあ、個性的でいいじゃないか」
「留学の話も流れたりしませんかね」
桃花はそんな声を拾いながら、個展を見ていた。
愛海は桃花を見つけると、笑顔で近寄ってきた。
「本当に留学して大丈夫?」
桃花は一番にそう聞いた。
「まだ心配してるの?フランス語も勉強してるし、問題ないよ」
「そうじゃなくて……」
画風が変わったのって、アバンギャルドな父親に会ったせいかもしれない。
だとしたら桃花にも責任の一端がある。
「イケてるでしょ、この絵」
そう言って、前衛的な新作を見ながら、愛海は不気味な笑みを浮かべた。
その笑み自体が見るのが初めてで、そのことがさらに心配を増幅させた。
これで良かったのかな。