タイトル「森ガールと盛りあガール」 33 | 可愛い君に愛を囁きたい

その日は部室に行く足が少し重かった。

ああ、緊張してる。

私にも女な部分があるんだ。

良かった。

せめてもの救いだ。

桃花は音楽に夢中で、正直、男なんかどうでもいいやって感じだったから、見かけ以上に無垢なのだ。

イノセントな森ガール。

うーん、なんかいい詩が書けそう。

ヘビメタの詩って、結構肉食系男子だったりするし、まあ、詩なんて付録だし。

でも今なら素敵なラブソングが書けそうじゃない。

ああ、ギター置いてくるんじゃなかった。

「やあ」とルカが声をかけてきた。

さすが、森ガール好きを自称するだけのことはある。

ある意味、登山ですか?と聞きたくなるような格好。

 桃花はすぐに反省した。

 そうだ、ギターは捨てたんだ。

 何がいい曲だ。

 そんなこと言ってるから、今まで男ができなかったんじゃない。

 今はその時なんだから。

 絶対に負けられない試合なんだから。

 そう、見た目は森ガール、中身は獣。

 イケメン狩りが始まったのよ。

「オッハー、ルカ」

 ルカは面食らった顔をした。

「何、ギャグ?おはよう、桃花」

 しまった、蒼井優のつもりだったのに、古すぎた。

 ルカは桃花の横に座った。

 二人だけの部室。

 それは静か過ぎて、心臓の音さえ聞こえそうだった。

 それきり沈黙が続いた。

 バカ、バカ、私。

 しょうもないギャグのせいで言葉をなくしてるじゃない。

「名前で呼ぶのって、緊張するね」

 ルカが口を開いた。

 うん、まさか緊張してるだけなの?

「下の名前で呼ぶのって、結構勇気いるね」

 そっか、そういうことだったのね。

「うん、ドキドキする、なんか胸の中に時限爆弾仕掛けたみたい」

「ほんと、いつ爆発してもいいくらい、ドキドキしてる」

名前で初めて呼んだ時、ドキドキした。

「なんか、喋りがよそよそしいね」