つづき

 元サタニストの自叙伝(21)
 2010/5/16ブログ主さん公開

   苦痛の大聖堂①

 私が入って行った部屋はある種の神殿で、教会と同じ位大きいものだったかもしれない。そこには腰掛ける所は何処にもなく、ただ台形の祭壇だけが中央の高くなった所に饐えていた。その祭壇自体は粗いコンクリートからできていいた。そこからねじれた鋼の大きな梁が、あらゆる方向に放射状に伸びており、祭壇は明らかに血で汚れていた。一つの梁が祭壇の後ろから持ち上がって、逆さ十字を形成していた。祭壇の背後には高くなった玉座があり、それは人の背丈よりもずっと大きなものに見えた。その玉座は黒で、完全に滑らかで誰にも占められていなかった。私はどこかにそこに誰も座っていないことに安心した。しかし、それはその部屋に関して安心できるただ一つのことだった。

私のひときわ目立つガイドは、その部屋で私の方を向いて大げさな身振りをした。それはどこかオーケストラの指揮者のようであった。
彼は全く興奮を欠いて言った。
「苦痛の聖堂へようこそ。」これらの言葉と共に、暗く煌めく光が音もなくその巨大な場所の壁の背後から差し込み、私は自分が見たものにあまりにも驚愕し、ほとんど酷く惨めな状態になった。
その壁は、内側に傾いたなめらかな黒い石のように見えていたのだが、完全にその姿をさらけ出し、内側に透き通った緑色をした液体の入ったガラスだという事が分かった。
中の液体に浮かんでいるのは、何百とは言わないが、何ダースもの裸の人間の体であった!それらは全て死んでおり、ほとんどが凍りついた顔に口を開けた状態で、激しい苦痛の表情を浮かべていた。彼等の多くは、私さえも具合悪くさせるほどのやり方で手足を切り取られていた。
このグロテスクな水槽のような標本は、そのほとんどの占めるところ、若い人々であった。いくらかを除いて、全ての人々は成人するかしないかの歳のように思われた。非常に痛ましいことに、残りの大多数浮かんでいるのは幼児や小児であった。それは地獄の蝶の標本のように、ホルムアルデヒド、または神に見捨てられた他の物質に浮かべて保存されているようであった。この残酷なジオラマは、私が把握している一つを除く9つの全ての部屋の端から私を睨みつけていた。9はサタニスト達の間では、最上に称賛される数の一つである。というのもそれは、いつもそれ以外の数が全て含まれるただ一つの数だからである。玉座の背後の壁もやはり黒い石で出来ていた。
「これらは主の子供達である。」
私のガイドは、奇妙なある種のプライドを持った声で宣言した。
「美しくはないかね?」
私の喉はとても渇いており、やっとしわがれた声で返事をすることができた。信じられない程の悲劇的な方法で、彼等の多くは美しかった。私は自分の本当の反応を恥じて認めるが、私の前に浮かんでいる多くの女性の光景に、欲望を感じたのであった。これはあまりにも現実的であるということを除き、想像しうる限りの酷い悪夢に似ていた。
「このように死ぬ者達は、全て主のものになるという特権を持つのである。」
明らかに私の反応を感じ、それを認めてHは説明した。
「そして今や永遠に、お前も彼のものだ!」
不吉な最終宣告の響きをもって、最後の言葉が言い放たれ、私もこの呪われた場所の壁の中に浮かぶことになるかもしれないという、鋭く突き刺すような恐怖を感じた。

私が動いたり話したりできるようになる前に、光の柱が目に見えぬ天井の穴からゴーと音を立て降ってきた。それは火花が散る炎で黒曜石の玉座を打った。あまりにも明るかったため、浮かんでいる物体の恐ろしい形を私の目の前から消し去った。(?)
光の中から何とも言い難い巨大な存在が出現した。彼もまた白いローブを着ており、肩まで垂れ下がる白い髪を持っていた。力強い羽が彼の両肩から広がっていた。しかし彼を取り巻く全てのものは、次の瞬間変化した。ほんの少しの間に、彼は普通の非常に顔の整った男になった。次に雄牛の顔に、その次には美しい女性の顔になった。
私の前で巨大な姿に変わる光と水銀の煌めきは、私の目を焼き涙を出させたので、私は自分の目をこすった。私には全てのことが、あまりにも本当に生き生きと感じられたので、もう一度この経験の現実性に驚愕した。私のガイドのH は私を前の方へ連れて行き、冷たく粗いコンクリートの上にひれ伏すように手助けをした。私は彼が私の上に大きな鎖を掛けなかったことに安心した。


  (22)

  苦痛の大聖堂②

 私は自分自身に逃げられる場所はないかと問うた。私は自分が何処にいるのかという何のアイデアもなかったが、自分自身の正気でない心の中以外の、何処かにはいたことだろう。
しかし、私は悪夢を見ている状態にあったとしても、自分の心がこのようなとても惨たらしい場所を考えつくとは想像出来なかった。

私は奇妙にも祭壇の上に伏していることに恐怖を感じた。それはほとんど、私の恐怖が玉座にある煌めく玉虫色の存在から流れてくる力によって、引き出されているかのようであった。突然、何十人もの人々が現れた。彼等は私のガイドのようにローブを着ていたが、頭にフードを被っているだけは別だった。男も女もそこにいた。全く奇妙なことに、私は神殿の床の上を歩く彼等のペタペタという冷たい足の音が聞く事ができた。
「アヴェ サタナス、レゲ サタナス」
(サタン万歳、サタン統治)
と、深い低音の幽玄なトーンで、ラテン語による唱和がはじまった。グレゴリオ聖歌のようだが、とても変わった調整だった。
「お前は我が主、光をもたらす者の輝きを味わったことだろう。そして光を受けるに相応しいお方であるということが分かっただろう。」
私のガイドは私に告げた。
「光に自分自身を服従させるか?」
私は自分の頭がまるで唸っているかのようであった。だがそれでも私は奇妙なことに平静であり、リラックスしていた。私はかろうじて「はい。」と言うと、唱和する声はより大きくなった。
急に玉座に座っていた存在が立ち上がった。私は彼の背の高さに驚愕した。彼は大人が三輪車の上にそびえたつように、何の苦もなく祭壇を跨いだ。彼は自分の左手を伸ばしそれを私の額の上に置いた。私は前面でギラギラする光のために目を閉じなければならなかった。
それは私の眼球が溶けた鋼のように変化したようだった。私の額はほとんど爆発しそうだった。私は自分の眉の間を爪が引き裂いて、丁度眉の間か、少し上の方に白く焼けた火かき棒のように、爪が私の脳の中に挿し込まれたのを感じた。私は叫ぼうとしたが、出来なかった。私の体全体はゴウゴウと燃える熱い光の炎によって包まれたせいで、張り裂けそうになっていくのを感じた。別の爪が私に触れ、私は刺すような痛みを感じた。そして両方の手が引き戻された。
声は語った。私が数々の儀式の際自分の内側に鳴り響いているのを聞いていたが、それと同じ声だ。
「今やお前は永遠に私のものだ。」
巨大な広間全体が突然百人もの唱和の声で轟いた。
「栄光と愛をルシファーに!憎む!憎む!憎む!呪われた神よ!呪われた!呪われた!」
耳をつんざくような雷鳴が大聖堂を揺さぶった。私は信じられないようなスピードで祭壇から引き離され、死骸で出来た酷い壁の中へ運ばれて行った。ほんの一瞬、私は自分か彼等と一緒に置かれるのではないかと考え、ついに叫び声を上げることが出来た。しかし叫び声が終わらない前に、私は壁を通り抜け、稲妻が雲を通り抜け凄まじい音を立てて、地上に向けてた突き刺さるかと思われるものによって、運ばれて行った。1秒も経たないうちに自分が裏庭の、雨で濡れた芝生の上に頭を下に向けて寝ているのに気が付いた。裏庭は間違いようのないほど、オゾンの匂いが辺りに漂っていた。私の周りの草は奇妙なことに焦げているように見えた。煙が芝生から立ち上っており、夏の午後の太陽によって焼かれたような匂いがした。

あれは夢だったのか?私はそう言う事が出来ない。しかしもしそうだとさしたら、私は私達のベッドルームを抜け出し、雨が降る中、裏庭の中心まで誰も起こさないで夢遊病者のように歩いたということになる。私は今まで夢遊病者になったこともないし、シャロンはピンが落ちる音でも目が覚める人なのである。
私の人生はその時から深く変わってしまった。もしあの存在がサタンだったとしたら、彼は私に、これから何年も負うことになる印を与えたということになる。その印は、私が彼の所有であるという印で、私はそれを一度も忘れる事が出来なかった。それは悪夢であったが、目覚めることのできない悪夢であった。