心霊主義 1.の続きです。

 ○ 心霊主義の起源と背景

 ①西洋哲学
 
 心霊主義は、人間の「死後存続」を信じる思想です。17世紀末の哲学者ゴットフリート・ライブニッツ(1646_1716)は、彼の基本的理念によって死後存続について一つの完璧な教理を築きました。心霊主義の理論ベースには、ライブニッツのモナド(単子)論があります。ライブニッツは、宇宙は不滅の心霊的原子である「霊魂」と「モナド」の無数から成り立っており、それぞれのモナドの完全さの程度は異なり、より完全な状態に向かって発展しようとする傾向を持つていると考えました。生物のような複合体はモナドの集合体であり、霊魂である主要モナドの支配を受けている。そして、ある状態から、他の状態への飛躍は自然的ではなく、生も死も連続したものだと考えました。また、霊魂は神の似姿であり、人間の霊魂は他の星でより完全な意識を持って存在すると信じられるとしました。ただし、宇宙及び神は無限であるから、認識(意識)は完成することはない。そして幸福とは、新しい喜びと新しい完全に向かう「絶えざる進歩」の内にあると考えました。

 哲学者イマヌエル・カント(1724_1804)は死後の世界の性質ではなく、その真理を「証明する」可能性について見解を示しました。カントは、合理的形而上学は死後存続の問題になんら根拠のあることを教えないが、我々は知的ではなく道徳的直観によって、先天的に定められた「無条件命令」を自らの中に見出すと述べています。その道徳律を最もよく規定する原理は、「自分の意思と行動とあらゆる理性的な人間と一致させることに努める」ことであるとしました。カントはその理性相互間の調和を「目的の王国」と呼びましたが、完成はこの世では不可能に感じられ、経験的にも不可能であるとし、完成には我々の限りない存続による限りない人格の進展しかなく、従って霊魂は不死でなければならないとしました。

 19世紀は全体として、不死と進歩との考えを結び付けるカントの根本的立場を受け継ぎました。カントを受け継いだ死後存続の解釈は、大きくニつに分けられます。一つは、カント及びライブニッツの真正の思想を忠実に守り、生前の人格が死後も引き継がれる、人格的死後存続という形で考える一派です。もう一つは、カントをバールーフ・デ・スピノザ(1632_1677)の思想で補い、むしろ絶対精神を認め、それの発展が個々の存在者を貫気、かつ個々の存在者によって徐々に完成されるとする態度です。後者の立場は、「永遠なる人類」という純粋に此世的な不死思想に結びつきました。。レーノーの『地と天』1854年では、人間の生は、天体から天体へと移り、以前の過失を償う生涯の連続であり、完成することのない試練と罰と完成への進展だとし、霊魂は段々と向上し、その歩みは神聖な計画と、世界と世界の調和の機能に従うものであるとしました。
 初期の社会学者フランソワ・マリー・シャルル・フーリエ(1772_1837)は著作の中で、天体は道徳や知性を持つ、霊魂ある一個の生物であり、そこに生きるものは天体には劣るが永遠の霊魂を持っていると述べています。個体が死ぬと霊魂は隣の空間(あの世)に移り、それから元の天体の住民に生まれ変わって戻ってくるという往復を81000年の間に810回繰り返し、合計1620回の生涯があると計算しました。うち27000年は地上で、54000年はあの世で暮らすことになります。フーリエは、個人はその多くの生涯の間にだんだんと向上すると考えました。地球が死滅すると、地球の霊魂はそこに生きる霊魂を連れて新しい天体に移り、個々の霊魂は個性を失って天体の霊魂に溶け込むというのです。この壮大な上昇過程が最終的にどうなるかは述べられてはいません。


 ということで、心霊主義は哲学的な観点から始まったようですが、こうした考えは難しく理屈を捏ねていても、結局は古代バビロンの司祭たちが起こした神秘宗教の思想と結びついているのです。ただそれを時代に合わせ、ライブニッツなど科学的に説明しようとし、宇宙は不滅の心霊的原子であるモナド(霊魂)(単子)の無数から成り立っていると言い換えているのです。そして完璧ではない人間の霊魂だから、神のように完璧になろうとして進歩するのだと解き、カントもレーノーもフーリエも基本形は同じで未完全から完全なる魂の進化、変容を経て(輪廻転生を繰り返し)上昇していく、神にならんとするという思想を述べています。多少の解釈は違っていても古代から基本的な教えの形は相変わらず変わりないと言えるのです。

 ②アメリカの心霊ブーム

 1837年に心霊主義に関する現象として、シェイカーのニスクユナ共同体の集会の踊りの最中に少女達が気を失って倒れ、回復してから「天使達と語り合い、天上の世界を旅した」と語ったと言います。この現象でシェイカーの始祖アン・リーの霊と交信する「道具」心霊主義の霊媒に当たる役割ができ、アン・リー以外に、シェイカーの指導者達の霊と「道具」を介して交流するようになったのです。しかも10年もその現象は続きました。 
また、1848年ニューヨーク郊外ハイズヴィルで起きた事件です。フォックス家に謎のポルターガイスト現象が起き、フォックス姉妹3人がみなその体験をします。原因不明のラップ音、叩音がし、姉妹たちが見えない霊に話しかけ質問などをすると、音で回答をしたと言うのです。音を鳴らすのは死者の霊だとして解釈され、この事件はまたたく間に世間に噂され、広がりました。霊と交信の出来る姉妹は有名になり、交霊会が開かれるようになりました。当時ニューヨーク市の見世物興業で有名だったバーナム・ミュージアムでも交霊会が行われるようになりました。高額の参加費が設定されても、あらゆる階級の人々が押しかけて人気を博したといいます。やがて、霊媒としての確かな地位を得た姉妹は、最近親しい人を亡くし、悲しむ人々の為に死者の霊を呼び、交霊会を行いました。参加者は死者との心の交流を、死を次の生への通過点と見なすことで慰めを得たと言います。
 
 こうしたフォックス姉妹が行った霊媒と死者との交流は、現代のスピリチュアル・カウンセラーと同じ行為であり、この頃から料金を得ているところから、霊媒は仕事であり、商売となったのです。つまり、フォックス姉妹からこの霊媒商売は始まったと言えるのです。
 それに、フォックス姉妹の霊交信以後、何故か霊媒現象はエスカレートしていきます。交信方法も、ラップ音から、アルファベット、トランス状態からの自動書記、物が動いたり、霊そのものが現れる物質化現象、参加者の髪をひっぱるなどが起きてきたのです。
やがて、霊媒師の数も増え、あっという間に全米に心霊ブームが起きました。1855年には、アメリカだけでおよそ100万人が心霊主義を受け入れたといいます。その中には、貴族や企業家・上・中流階級、作家、科学者などの知識人など社会的エリートも多く含まれていたのです。1840年代にはアメリカの霊媒師が次々とヨーロッパに渡っていき、霊媒による交霊会や心霊現象という心霊ブームは、ヨーロッパにも広がっていきました。中でもイギリスでは、階級を問わず広く社会現象となりました。心霊主義の流行は、完成された共同体、世俗的千年王国の到来を告げるものとして受け入れられたのでした。

 [19世紀前半に千年王国思想を信仰した人々(ユートピア的共同生活共同体や、心霊主義者スピリチュアリスト)は、千年王国がこの世に現れるまでに現世を出来るだけ改革しておくべきだて考えました。そのために社会矛盾を克服を目指して奴隷制度廃止や、奴隷制度廃止や女性の地位向上などの社会改革思想の活動を行いました。]


 この、「千年王国」というのは、聖書に出てくる、ヨハネの啓示20章に予言されている、終わりの日の反キリストとの戦いの後、イエス・キリストの復活、再臨後の予言です。

 啓示 20:1〜6 それからわたしは、一人のみ使いが底知れぬ深みの鍵と大きな鎖を手にして天から下って来るのを見た。そして彼は、悪魔またはサタンである龍、すなわち初めからの蛇を捕らえて、千年の間縛った。そして彼を底知れぬ深みに投げ込み、それを閉じて彼の上から封印し、千年が終わるまでもはや諸国民を惑わすことができないようにした。これらのことの後、彼はしばらくの間解き放されるはずである。また、わたしは、数々の座を見た。それに座している者達がおり、裁きをする力が彼等に与えられた。実にイエスについて行った証しの為に斧で処刑された者達、また、野獣もその像も崇拝せず、額と手に印を受けなかった者達の魂を見たのである。そして彼等は生き返り、キリストと共に千年の間王として支配した。(残りの死人は千年が終わるまで生き返らなかった。)これは第一の復活である。第一の復活にあずかる者は幸いな者、聖なる者である。これらの者に対して第二の死は何の権威も持たず、彼等はキリストの祭祀となり、千年の間彼と共に王として支配する。

とあります。しかしこの時代、心霊ブームから「千年王国への到来だ」と民衆が期待するのは、実に理解し難い滑稽な話です。
だいたい、堕天使や悪霊達が心霊現象を霊媒師を通すなどして頻繁に起こし、心霊ブームを扇動し続けたことは明らかです。彼等は常に聖書の教えや予言を曲解させようとしているからです。
それはともかく、民衆が霊媒現象を堕天使や悪霊の仕業だとは分からないのは仕方がないにしても、聖書を知っているなら、霊媒などの心霊術を嫌う神がどうして、心霊ブームに乗っかっている自分達をイエス・キリストの千年王国へ招待すると信じられるのでしょうか?そこからして間違っているのです。

 
 ③ 現代の心霊主義 1.

 英語圏においては、ウイリアム・ステイントン・モーゼス『モーゼスの霊訓』(1883年、インペラールという未知の上位者の霊によるメッセージとされる)、ジェラルディン・カミンズ『マイヤースの通信』(1932年、故フレデリック・マイヤースのメッセージとされる)、モーリス・バーバネル『シルバー・バーチの霊訓』(初刊1938年、シルバー・バーチという未知の上位者の霊によるメッセージとされる)といった霊媒による霊との交信記録、いわゆる「霊界通信」が次々と出版されました。これらを重要なメッセージであると考える人々によって研究され、一部は日本語にも翻訳されました。日本の書店には「精神世界」の棚に置かれています。
『シルバー・バーチの霊訓』によると、死後の世界は階層的で、地球圏に近いほど、死後の環境が地上に似ているといいます。それが上の世界に行くに従って、美しさと神々しさを増し、更に上の世界では地上の言葉で表現することが困難になるといいます。心霊主義とは、こうした理解を人類へ促すために、高級霊が中心となって全霊界により計画された運動であるというのです。

 つまり、言い換えると、シルバー・バーチは、霊界全体の計画により、死後の霊界の世界を地上の人々に教えるということを高級霊達を中心に心霊主義のブームを起こしたと言っているのです。私も元は心霊主義でしたので、この「シルバー・バーチの霊訓」は読みました。
この本は「精神世界」の世界ではかなり有名だからです。今でも人気があります。
内容は『人類救済』がテーマのメッセージです。とても丁寧な言葉でいかにも高級霊が語りかけているようです。過去私は、守護霊や死後の世界も信じていましたから、本当にシルバー・バーチの語る死後の世界があるのだと思っていたのです。

 言うまでもなく、この霊媒の本は、本物の霊界の天使のメッセージではありません。
堕天使、もしくは悪霊の偽の霊界通信なのです。しかし、別の見方をすれば、彼等の嘘の肉声とも言える本ということにもなります。せっかくなので少し紹介しますね。


 シルバー・バーチの霊訓 1.
「この交霊会に出席される方々が、もしも私の解く真理を聞くことによって楽な人生を送れるようになったとしたら、それは私が神から授かった使命に背いたことになります。私どもは人生の悩みや苦しみを避けて通る方法をお教えしているのではありません。それに敢然と立ち向かい、それを克服し、そしていっそう力強い人間となってくださることが私どもの真の目的なのです。」
「霊的に見て、あなたにとって何が一番望ましいかは、あなた自身には分かりません。もしかしたら、あなたにとって一番嫌いなことが実は、あなたの祈りに対する最適な回答であることもあり得るのです。(略)……祈りにはそれなりの回答が与えられます。しかしそれは必ずしもあなたが望んでいるとおりの形ではなく、その時のあなたの霊的成長にとって一番望ましい形で与えられます。」


 

 -心霊主義 3.に続きます。