世の中には、「どうしてこんな本が?!」
 と理解と想像を超えたものがあります。
 それを3点ご紹介します。


 その1
 【ギガス写本】Codex Gigas

 2007年9月20日、チェコの首都プラハのチェコ国立図書館にて、「悪魔のバイブル」と呼ばれる聖書の写本が一般公開されました。
縦100cm横50cm厚さ22cm重さ75kg
 総624ページ
という、とても一人では持ち運びの出来ない本です。また、その素材も160頭のロバの皮で作られており、この巨大な本(Codx Gigasの意味)は現存する中世文書の中でも最大であり、奇妙である為[世界8番目の不思議]と呼ばれています。
また、その内容においても、旧約聖書や新約聖書、[ヴィルガーダ版聖書]古代の歴史、薬物療法、魔術(悪魔祓いを含む)などが記されており、これらテーマの組み合せなども、この本にしか見られません。これらは全てラテン語で書かれています。

更に、本には悪魔の絵が描かれており、そのページ全体に畫かれた悪魔には説明のつかない影が現れるというのです。

 この本が制作されたのは、13世紀、場所はボヘミア地方のベネディクト会の修道院と言われています。当時、この修道院には「黒い修道士」と呼ばれた僧侶がおり、彼は修道院の厳しい修行の掟を破ったために独房に入れられてしまったといいます。
ベネディクト会のその厳しい修行とは、清貧、貞節、ノミが湧く修道服をまとい、食事や睡眠まで我慢し、あげくはムチで自らを痛めつけるというものだったようです。
 もうはっきり言って、明らかに普通の教会ではないサドマゾの世界です。しかも、これらを守れないと強欲、色欲に負けるとされ、独房での監禁、更なる罰則が与えられたといいます。
 
 さて、独房に入れられたその黒い修道士は、与えられた更なる刑罰を耐えるために、「修道院を永遠に讃え、全ての人類の知識を集めるべく一晩で本を写本する」と神に誓いました。
ところが、真夜中になってその誓いが守れないことを悟った彼はあろうことか、悪魔ルシフェルに語りかけたのです。「ルシフェルよ、どうか私の魂と引き換えにこの聖書を完成させてほしいのです。」と。
そして、彼の望みはあっさり叶えられました。黒い修道士の彼は、ルシフェルに大いに感謝し、後から悪魔の絵を追加して描いたのだと言われています。

 このギガス写本を研究しているチームの話では、この本の筆跡鑑定から確かに一人の人物が書いたということ。1230年頃に完成したであろうこと。そしてもし一人で製作したなら、おそらく20〜25年はかかったであろうということでした。しかし、彼が本当にルシフェルと魂の契約を交わしたと言うなら、一晩でこの本を完成させることくらい悪魔のルシフェルなら難なくやってみせるでしょう。 

 また、一説によると彼の名前はヘルマン、もしくはハーマンといい、彼は独房の中で生きたまま壁に繋がれる処罰を受けたとも言われています。
 この悪魔教会と呼ぶに相応しいベネディクト教会は15世紀に破壊されたそうですが、その間、このギガス写本は様々な人物によって守られ(人から人へ渡る間にいくつもの気味悪い出来事がゴロゴロあったようです。)現代まで現存しているのです。


 その2
 【ヴォイニッチ手稿】古文書

 1912年にイタリアのイエズス会派修道院ヴィラ・モンドラゴーネ寺院で、アメリカ人古物商のウィルフリド・ヴォイニッチによって発見されました。この全編手書きの古文書は1404年〜1438年頃に書かれたとされています。作者、タイトル不詳のこの古文書は、かなり個性的なタッチで描かれた膨大な挿絵とともに、謎の文字が書き込まれています。しかし、この謎の文字、使われている言語は誰も理解できないのです。今まで何人もの学者たちが解明しようと試みたのですが今も判らないままなのです。
おそらく、自然言語か人工言語のように確かな文章列であるものの、解読までには難しいといいます。
 
 そんな中、最近ロシア・アカデミーのロシア数学者達が解読に近づいたと発表したようです。

 母音と空白部分を削除する方法原理に基づいた鑑定で、英語・ドイツ語が60%で書かれており、残り40%がポルトガル語・ロマンス言語(俗ラテン語に起源をもつ総称イタリア、スペイン語)になるそうです。
   
 この古文書は、縦23,5cm横16,2cm厚さ5cmの大きさで、約240ページの羊皮紙で作られています。中身の内容ですが、
   ❲天文学の部❳ ❲植物学の部❳ 
   ❲温泉学の部❳ ❲薬草学の部❳ 
と4つの部門に分かれており、どれも奇っ怪な挿絵ですが、彩色は美しく目を惹きます。ただ、描かれている植物はこの世には存在しないものだったり、植物図鑑のように見せていますが人間の頭から生えた植物だったり、変な動物がいたりとやっぱり不気味です。また、数多くの配管らしきものとプールや浴槽に浸かる裸の女性ばかりが描かれていたり、占星術を思わせる天文学の部では、円形の図の中心に花のようなモチーフの様々なデザインがされていたり、または、円形が曼荼羅のように描かれ、円をぐるりと複数の裸の女性がそれぞれ桶に腰まで浸かっている絵などもあり意味不明です。
もっと不思議なのは、全編の文字や挿絵が全て手書きであるのに、一切の修正の跡が見当たらないことです。普通のこうした手書きの本には修正がされた跡があるのですが、この本には見当たらず、ある意味完璧に描かれたといえる本なのです。

 この古文書は有名なので数多くの紹介文があります。

 ⚪おすすめ動画
【暗号】ヴォイニッチ手稿
               Voynich Manusript【いたずら】


 その3
  ヘンリー・ダーガー作 Henry Darger
【非現実の王国として知られる地におけるヴィヴィアン・ガールズの物語。子供奴隷の反乱に起因するグランデコ・アンジェリニアン戦争の嵐の物語】

というタイトルからして長過ぎるこの小説は、一人の孤独な男が19歳から亡くなる81歳まで、いわば生涯に渡って書き続けたとされる本です。1973年に彼が死んで初めてその作品が世に出ました。彼が長年借りていたアパートの大家によって発表されたのです。ダーガーは亡くなる前に、「その遺品を全て燃やしてほしい」と頼んでいたのですが、大家は写真家でもあったため、ダーガーの作品に芸術的なセンスを感じ、燃やすのを止めて公表することにしたのです。
 何千枚の日記や自伝の中に、この「非現実の王国」の小説はありました。その15000ページにもおよぶ長さの物語は世界一であろうと言われています。また、挿絵もダーガー自身が描き、その多くが3メートル以上もあり、
また300枚以上もあったようです。
 彼は生涯独身で誰とも深く付き合わず、周りからも「ひどい引きこもり、孤独な男、変わり者、ホームレス」といった暗いイメージしかない男でした。だから、誰も彼のことを気にかける人間など居なかったのです。

 「非現実の世界」の物語の内容は、主人公である、ヴィヴィアン・ガール達を虐げる大人達に対して、少女達が勇敢に立ち向かう姿を描いたものでした。(彼の父親の影響もあって、物語の少女達と大人達の戦いは、昔の南北戦争をモチーフにしたと言われています。)
ただ彼の作品の中で注目されることとして、挿絵を見ると少女達が裸で描かれているものがかなり多く、(普通の洋服姿も沢山あるが)妖精の羽を付けたり、花と戯れていたりとどこかエロティックなのです。しかも、身体の上は女の子で下は男の子の絵(両性具有者)も多く異様です。また、裸の少女達に銃を構えさせたりしています。その他にも、頭に羊やヤギのような角をつけた子供も数多く描かれているのです。

 物語の文面から挿絵まで、それと彼の部屋に山ほどの数多くの少女達の雑誌の切抜き、写真などが保管してあったことから、彼が小児性愛者[ペドフィリア]であったことは疑いようがありません。

 これらは、子供に見せられる小説ではもちろんありません。ある意味、「イカれ本」なのです。

 彼は、挿絵を描く始めの頃は絵に自信が無かった為に、雑誌の切抜きのそれらをコラージュの形にして貼っていたようです。しかし、次第に描く技術を上達させてゆきました。

 彼の描く物語は夢の中を彷徨うようであり、ダーガー自身がその物語に入って活躍し、酔っているかのようです。
実際彼の頭の中は、現実と非現実の間にあったのでしょう。

 ダーガーの出身はアメリカのイリノイ州、シカゴです。4才の時に妹が生まれましたが、不幸なことに、母親は出産時の感染症により命を落としてしまいます。そのせいで妹は兄妹の縁なく養子に出されてしまいました。その妹の存在はその後の彼の人生に深い影を与えました。
その後8歳で父親が病に倒れ、彼はカトリックの養護施設へ預けられることに。彼はその頃から精神的に不安定であったようです。幼い時期から、相次ぐ不幸を経験したのだから無理はありません。養護施設で問題になり、12歳で「リンカーン精神薄弱児施設」に入ります。しかし、以外にもこの施設で彼は安定した生活ができるようになっていったといいます。
16歳で最愛の父親が亡くなり、再び精神的に不安定になり荒れたダーガーは、発作的に施設を脱走してしまいます。その後カトリック系の病院に転々と移り、住み込みで働くなどの生活を生涯送ったのです。

  ⚪参考動画
 世界の奇書をゆっくり解説 
 第5回「非現実の王国で」