(2022.9.05)
⇒季節性インフルエンザが予防接種法の対象疾病から削除された経緯について、国会議事録など(抜粋要約、時系列)を掲載する内容です。
⇒まずは国会議事録などよりまとめた概要から。
「昭和23年の予防接種法の制定時において季節性インフルエンザは、接種対象者を定めた定期の予防接種ではなく、公衆衛生上の必要性に応じて行う臨時の予防接種の対象疾病とされた。」
「季節性インフルエンザの予防接種は、昭和51年の改正時までは、予防接種法に基づく予防接種ではなく、法的根拠のない勧奨接種として、乳幼児、小中学校児を対象として実施されていた。」
「昭和51年の改正時から平成6年の改正時までは、「一般的な臨時の予防接種」の対象疾病として、保育所、幼稚園、小学校及び中学校などの児童を対象として接種が行われた。」
しかし、
「平成6年の改正により、予防接種法の対象疾病から削除された。」
⇒なお上記の期間において、「健康な小児を含めた集団接種」を行っていた国は、日本以外に確認されていません。
⇒昭和37年春、季節性インフルエンザが流行しました。
○第43回国会 衆議院 社会労働委員会(昭和38年1月30日)
▽政府委員
「インフルエンザ特別対策費補助金、これは昭和37年インフルエンザの大流行を見まして、予備費をもらいまして、実は小中学生1500万人(小中学生以下2000万の75%)にやっておるわけでございます。」
「成績がいいというので、来年度もやるということでございます。」
○第46回国会 衆議院 社会労働委員会(昭和39年2月12日)
▽政府委員
「昭和37年春の流行のあと、直ちに小中学生を対象にいたしまして全国的な予防接種計画を立て、これを実施いたしたわけでございます。」
⇒以降も「法的根拠のない勧奨接種として、乳幼児、小中学校児を対象として実施」されました。
○予防接種法及び結核予防法の一部を改正する法律等の施行について(昭和51年9月14日)厚生省公衆衛生局長通達
▽一般的な臨時の予防接種
「インフルエンザについては、今後は、従来の特別対策を行わず、新たに改正法に基づき予防接種を行うものであること。」
⇒昭和51年改正までの季節性インフルエンザ予防接種は「特別対策」であったとのことです。
⇒改正以降は「一般的な臨時の予防接種」として「法に基づいた予防接種」が行われています。
○第107回国会 参議院 社会労働委員会(昭和61年11月25日)
▽委員
「インフルエンザの予防接種、今我が国では義務接種ということになっておりますけれども、我が国以外でこういう予防接種を義務づけている国というのはほかにあるわけでしょうか。」
▽政府委員
「世界各国を調べたわけではございませんが、法による義務づけをしておるのは我が国だけのようでございます。」
▽委員
「予防接種を集団的にやることが効果があるのかどうか疑問視をされてきているのではないかと思います」
▽政府委員
「インフルエンザ流行防止に関する研究班というものを設けまして、今後どのようにしていったらいいかということも含めまして検討をお願いしておるところでございます。」
○当面のインフルエンザ予防接種の取扱いについて(昭和62年8月6日) 各都道府県知事あて保健医療局長通知
「インフルエンザ予防接種については、昭和51年9月14日付公衆衛生局長通知に基づき、集団生活をする児童、生徒等を対象とし、予防接種法の一般臨時の予防接種として実施しているところであるが、近年、その見直しを求める意見もあることから、厚生省としては、昭和61年度に実施した「インフルエンザ流行防止に関する研究」の報告を踏まえ、公衆衛生審議会に検討をお願いしたところである。」
「現在のインフルエンザワクチンを用いた予防接種では、社会全体の流行を抑止することを判断できるほどの研究データは十分に存在しないが、個人の発病防止効果や重症化防止効果は認められている。」
「インフルエンザ予防接種は、当面、その法律上の取扱いを変更することなく行うこととするが、国民が自発的意思に基づいて予防接種をうけることが望ましい」
⇒季節性インフルエンザ予防接種では「社会全体の流行を抑止することを判断できるほどの研究データは十分に存在しない」ため、法的には接種を受ける「義務」が規定されていましたが、「自発的意思に基づいて予防接種をうけることが望ましい」と通知しています。
⇒このような経緯の中、長年実施してきた世界で類を見ない「健康な小児を含めた集団接種」は、平成6年に取りやめになります。
⇒ではなぜ、平成6年に予防接種法の対象疾病から削除されたのでしょうか?
⇒まずはつぎの、予防接種による被害の救済を求める集団訴訟の判例より。
○東京高等裁判所(平成4年12月18日)判例より抜粋要約
「個人の尊厳の確立を基本原理としている憲法秩序上、特定個人に対し生命ないしそれに比するような重大な健康被害を受忍させることはできないものである。」
「生命身体に特別の犠牲を課すとすれば、それは違憲違法な行為であって、許されないものであるというべきであり、生命身体はいかに補償を伴ってもこれを公共のために用いることはできないものである」
「法は、厚生大臣に、予防接種を受ける個々の国民に予防接種による重大な事故が生じないよう結果の発生を回避する義務を課しているものというべきである。」
「昭和45年に予防接種禍が社会問題となるまでも、厚生省当局は、予防接種による副反応事故の発生状況については、予防接種の実施主体からの個別的な報告や人口動態統計等によつてある程度把握していた。」
「厚生省当局は、昭和40年代になるまで長らく、自己が把握した予防接種の副反応事故例については、これを外部には公表しないという対応をとっていた。」
「このような厚生省当局の態度・姿勢は、厚生省当局が予防接種の普及、接種率の向上の方に主として関心がいき、予防接種事故の存在を公開することは、その妨げになるという認識を持っていたことから生じたものと推認される。」
「予防接種による副反応の実態については長く公表されず、予防接種の必要性のみが強調されていた」
「予防接種を国の施策として遂行する立場にある厚生大臣としては、予防接種の副反応、禁忌事項及び予診の重要性等について、一般の医師及びこれを受ける国民にも周知徹底させ、予防接種事故の発生を未然に防ぐ義務があったものというべきである。」
「ところが、厚生大臣は、長く、伝染病の予防のため、予防接種の接種率を上げることに施策の重点を置き、予防接種の副反応の問題にそれほど注意を払わなったため、前記の義務を果たすことを怠った。」
「しかしながら、予防接種の副反応には、発生する率はごくわずかとはいえ、死亡にもつながる重大なものが含まれるのであり、国が、社会防衛の目的で、国民を強制ないし勧奨して接種を受けるよう仕向けた以上、国としては被害を避けるための措置を可能な限り尽くすべきであったというべきである。」
「国が、その国民の健康に関する施策を遂行する場合において、その施策の遂行によって国民の生命身体に被害が生じないよう充分配慮して万全の措置をとり、国民の生命身体に被害が生じる結果の発生を回避すべき義務があることは、当然であるといわなければならない。」
「以上のとおりであって、厚生大臣には、禁忌該当者に予防接種を実施させないための充分な措置をとることを怠った過失があるものといわざるを得ず、国は、被害児らに重篤な副反応事故が生じたことに対して、国家賠償法上責任を免れないものというべきである。」
⇒「憲法秩序上、特定個人に対し生命ないしそれに比するような重大な健康被害を受忍させることはできない」そして「生命身体はいかに補償を伴ってもこれを公共のために用いることはできない」、しかし「予防接種の普及、接種率の向上の方に主として関心がいき」、「予防接種の必要性のみが強調され」、「接種率を上げることに施策の重点を置き、予防接種の副反応の問題にそれほど注意を払わなったため」結果として「国民の生命身体に被害が生じる結果の発生を回避すべき義務を果たすことを怠った」などと判示されています。
⇒上記判決を受けて、国会議事録より。
○第126回国会 参議院 厚生委員会(平成5年4月20日)
▽委員
「昨年、インフルエンザなどの予防接種で死亡したり重篤な後遺症が生じた被害の救済を求める集団訴訟に対する東京高裁の判決が出ました」
「この判決は、厚生大臣は禁忌該当者に予防接種を実施させないための十分な措置をとることを怠ったとして、そのために発生した被害に国家賠償を認めるという、国に対しては厳しい内容でした。」
「厚生省は上告を断念して、提訴以来19年でこの長い裁判は終結しました」
「厚生大臣は記者会見で、ぬくもりのある厚生行政を進める立場からあえて上告を断念する、一度限りの人生を台なしにしてしまい、お慰めの言葉もないとして、予防接種制度の将来の展望を検討することが私に課せられた責任と御発言されました。」
▽国務大臣
「今後の予防接種制度のあり方については、3月24日に、公衆衛生審議会の中に「予防接種制度の見直しに関する委員会」を設置いたしました。」
「この委員会に諮問をいたしたわけでございますので、御審議をいただいているところであり、検討結果が得られ次第、法律改正を含めまして所要の措置を講ずることにいたしておるような次第でございます。」
⇒東京高裁の判決を契機として、公衆衛生審議会の中に「予防接種制度の見直しに関する委員会」が設置されたようです。
⇒「予防接種法の対象疾病からインフルエンザを削除」となった経緯などついて、国会議事録より。
○第129回国会 参議院 厚生委員会(平成6年6月9日)
▽政府委員
「今回の法律をつくるに際しましての公衆衛生審議会の意見では、インフルエンザについては病気の重症化防止効果は認められるけれども、「全体の流行を阻止」するという形にはなかなか現在のワクチンではならないんではないか、ということです。」
○第129回国会 衆議院 厚生委員会(平成6年6月22日)
▽国務大臣
「平成4年12月に集団訴訟として最大規模の東京訴訟につきまして、東京高裁で国側の敗訴の判決がございまして、国としては上告を断念したところでございます」
「今回の改正は、そのような判決の趣旨も十分踏まえまして対処した次第でございます。」
▽政府委員
「インフルエンザにつきましては、今回のこの改正に当たりまして公衆衛生審議会で専門家に十分議論をしていただいたわけでございます。」
「今回接種対象から外しておりますが、これはいわゆる副反応の問題というよりは、インフルエンザの予防接種が、疾病の重症化の防止効果は認められるけれども、集団的な防衛効果という点において、まだワクチンが流行株との関係においてなかなか開発し切れていないということから対象疾病から外すことにしたわけでございます。」
○第129回国会 衆議院 本会議(平成6年6月23日)
▽議員
「予防接種法及び結核予防法の一部を改正する法律案について申し上げます。」
「予防接種の対象疾病からインフルエンザを削除する。」
○第142回国会 衆議院 厚生委員会(平成10年3月11日)
▽委員
「予防接種法の改正のときに、今までのインフルエンザ接種は小中学生を対象にインフルエンザを蔓延するのを防ぐという意味で子供たちに打っていた、しかも集団接種であった。」
「そこで、科学的にその安全性、有効性が証明できないままにしているのはいかがなものかという御指摘を受けて、結局、集団接種がなくなりましたよね。」
▽政府委員
「今までは、小中学生に集団接種をするということで社会全体のインフルエンザの蔓延を防ぐということでやってきたのですが、いろいろな御意見があり、公衆衛生審議会も、集団に対して、流行を阻止すること、抑制することを判断できるほど資料が十分ではないということで、平成6年に予防接種法改正をいたしたわけであります。」
○第153回国会 衆議院 厚生労働委員会(平成13年10月19日)
▽委員
「平成6年の予防接種法の改正で、インフルエンザの予防接種は、子供に対する集団接種であったものが、この時点から取りやめになったということでございます。」
「結局は集団接種は取りやめになったわけでございますが、この取りやめになるまでの間、いつからいつまで何年間続いたのか、この際、明確にしていただきたいと思います。」
▽政府参考人
「インフルエンザの予防接種は、昭和23年の法制定時から昭和51年改正時まで、予防接種法に基づく予防接種としてではなくて、法的根拠のない勧奨接種といたしまして、乳幼児、小中学校児を対象として実施をいたしておりました。」
「昭和51年法改正時から平成6年改正時までは、一般的な臨時の予防接種の対象疾病となっておりまして、保育所、幼稚園、小学校及び中学校などの児童を対象とした接種を行ってきたところでございます。」
「なお、先ほど御説明しましたように、平成6年の改正時に対象疾病から除外した経緯がございます。」
「これらをトータルいたしますと、インフルエンザの接種期間につきましては、法的根拠のない接種は28年間、法的根拠のある接種の18年間、合わせまして46年間ということになっております。」
▽委員
「46年間接種をしてきたものが平成6年において取りやめになる、これは非常に不可思議といいますか、異常な事態ではないかなと思うところでございます。」
「ところで、諸外国の状況でございますけれども、今日時点でも子供に対する集団接種、かつて日本で行われていたようなこういう形で行われている国は確認できない、このようなことを承知しておりますが、それでよろしいでしょうか。」
▽政府参考人
「私どもの調べたところによりますと、アメリカ、英国、カナダ、ドイツ、イタリア、スウェーデンは、国もしくは州での勧告等によりましてハイリスクの子供を対象として接種を行っておりますが、いずれも健康な小児を含めた集団接種を行っている国はないというふうに承知をいたしております。」
▽委員
「今、経過を伺ってきたわけでございますけれども、このインフルエンザ予防接種がたどった経過、聞けば聞くほど、極めて異例であり、異常とも言える、こんな気がいたすわけでございます。」
⇒日本における「インフルエンザ予防接種がたどった経過」は「極めて異例であり、異常とも言える、そんな気がします。」に共感します。
⇒経緯は以上で、まとめに入ります。
⇒平成6年に予防接種法から削除された季節性インフルエンザですが、その後、高齢者に限定して対象とするため、予防接種法が改正(平成13年)され、定期の予防接種として努力義務すらない二類疾病(個人の発病、重症化を防止目的)が創設されました。そして季節性インフルエンザをその二類疾病と位置付け、対象者は「高齢者であって政令で定めるもの」とされました。
⇒接種勧奨については、市町村長等の義務として、予防接種法改正(平成23年)により規定が創設されましたが、季節性インフルエンザには、接種勧奨は適用されていません。
⇒よって平成6年以降にも季節性インフル予防接種に関する海外の研究など発表はされていましたが、結果として現行はつぎのとおり、季節性インフルエンザはB類疾病(平成25年の法改正において一類疾病・二類疾病をA類疾病・B類疾病に変更)の定期接種に位置付けられ、「個人の発病、重症化防止」に比重が置かれ、対象者は「高齢者であって政令で定めるもの」であり、努力義務、接種勧奨は適用されません。
○予防接種・ワクチン分科会(令和2年10月2日)資料
▽予防接種法体系図
「A類疾病の定期接種」
•まん延防止に比重
•努力義務、接種勧奨の適用「あり」
「B類疾病の定期接種」季節性インフルエンザ等
•個人の重症化防止に比重
•努力義務、接種勧奨の適用「なし」
最後に。
現在実施されている新型コロナ予防接種は法的には特例の臨時接種として、「まん延予防」上緊急の必要があると認めるときに、臨時に予防接種を行うことができると規定されています。
季節性インフル予防接種では「社会全体の流行を抑止するデータは十分にないと判断」された経緯がありました。
新型コロナ予防接種の今後は、如何に?