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わたしは市役所で長く戸籍事務を執ってきましたが、久しぶりに戸籍に関する書物を読んでいて「ふーむ」と思ったことがありましたので一筆させていただきます。
オーストラリアにおける婚姻届の届出に関するものです。
オーストラリアでの婚姻は、連邦婚姻法(Marriage Act 1961)、連邦婚姻規則(Marriage Regulation 2017)、連邦家族法(Family Law Act 1975)が適用されます。
日本でいう戸籍法、戸籍法施行規則、民法といったところでしょうか。
具体的には、婚姻する両者は婚姻希望通知書を提出し、1ヶ月以内に証人2人の立ち合いの下で、聖職者である公認執行人による婚姻を挙行する。
その後、婚姻する者、公認執行人、証人が婚姻証明書(Marriage Certificate)にそれぞれ署名し、同証明書を出産・死亡・婚姻登記所に提出しなければならない、とされています。
日本では市区町村役場に婚姻届を提出するだけです。
なので「オーストラリアって手続きが大変なんだなぁ」というのが正直な感想です。

また、過去に婚姻歴がある場合は離婚証明書や元パートナーの死亡証明書の添付が必要だとされています。
日本でも本籍地以外の役所に婚姻届を提出する場合は、戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)の添付が必要です。
しかし離婚の証明書や、離婚や死別したことを証明する書類の添付は必要ありません。

よく「日本の役所は手続きが煩雑」「届出一つで何十分も待たされる」という人がいますが、アメリカやヨーロッパ諸国に比べて、婚姻、離婚、養子縁組などの親族関係を形成・解消する届出に関しては、日本は簡便であるというのがわたしの感想です。
政情不安であったり、クーデターが繰り返されたなど政府機能が弱い国だと必要書類の交付一つとっても大変な苦労があります。
(官公庁が消失したり、役人が大幅に入れ替わったりして、事務やデータの継承がされていないのですね……)

日本人の場合、親族的身分関係とその履歴を記録した「戸籍」が存在すること、島国という特性から民族や文化・風習、宗教等の差異が少ないことから、法や行政機関が干渉しなくても婚姻(や離婚)が成立しやすいという文化的土壌があるからでしょう。
ちなみにカトリック国では、離婚が一切認められてない国、法律に定める要件に合致しなければ離婚が認められない国が多いことはよく知られているところです。

さて、日本において日本人と外国人が婚姻する場合、法の適用に関する通則法の規定に従い、日本法により婚姻届が審査されますが、外国人についてはその方の本国法の婚姻要件を満たしているかについても審査されます。
例えば、日本人の婚姻適齢は男性18歳、女性16歳であり、未成年の場合は父母の同意が必要とされています(民法第731条、同第737条。なお、第731条は、平成30年法律第59号により全部改正され、令和4年4月1日施行予定です)。

これについて、オーストラリアでは婚姻適齢は男女ともに18歳以上とされていますので日本とは差異があります。
しかし、オーストラリア婚姻法第11条及び第12条によれば「16歳に達し、18歳に達していない者は、州又は準州の裁判官又は治安判事に婚姻適齢である特別の者と婚姻することを許可する命令を申請することができる」とされており、婚姻の途が閉ざされている訳ではありません。
例えば、日本人(17歳)とオーストラリア人(17歳)の婚姻届が提出された場合、戸籍係では上記要件等を含めた審査をします。

また、オーストラリアでは同性婚が認められており、これも日本法と大きく違う点です。
注意ですが、先に記したとおり日本において日本人と外国人が婚姻する場合、日本法により婚姻届が審査されることから同性同士による婚姻届は受理されません(届書を不受理処分として、不受理の理由を付した付箋を付して届出人に返戻します)。

各市区町村の戸籍係というと役所の中でも地味なイメージがありますが、各国の法令を調べ、日常的に大使館等に聞き取りをしたり、外国語で作成された証明書類を読み解いたりと、結構国際色が豊かなのです🙂
その他、戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)や受理証明書等を外国語に翻訳したものに認証(「アポスティーユ」といいます)をかけたりと、日常的に外国人・外国語に触れる職なんですよ🙂