タイトル 「天使の羽」 880 結局、拓海は沙希に会うこともなく、退院した。 担当だった看護師の結城が、 病院の出口まで見送った。「お世話になりました」 拓海は深々と頭を下げた。 沙希のことを一言も、口にすることなく、 たった一人で帰っていった。 その後姿は、結城でなくても、 寂しげに見えただろう。 親子が同じ病院にいるのに、 誰一人、会っていけと声もかけないのだ。 もし、虐待疑惑がなければ、可哀想にさえ感じる。