隼人はそれから毎週のように試合をこなした。
チームがたった一人のスーパースターのおかげで
生まれ変わった。
そのせいか、対戦相手も強くなっていく。
隼人の噂はあっという間に知れ渡っていた。
そしてついに、去年、県大会で優勝したチームから、
対抗試合の申し込みがあった。
それでも試合は隼人の独り舞台だ。
相手が強いせいもあり、シーソーゲーム。
それでもけして引き離されるわけじゃない。
離されては同点に追いつき、それの繰り返し。
そして前半を終えた。
後半もデットヒート。
隼人だけが際立っていた。
相手のチームが隼人一人をマークしても、
それさえすり抜けてしまう。
隼人のサラサラヘアーが揺れる。
汗が飛ぶ。
キモ過ぎる。
これがイケメンなら、黄色い声援が飛び交うだろう。
しかし会場は乃亜の声援しか聞こえない。
乃亜はぜんぜん目立ってない隆平の名を呼び続けてる。
乃亜、少しは隼人に感謝しなよ。
ココロは隼人が可哀想になった。
「隆平!走れ!」
乃亜は声援を送る。
それに気がついてか、隼人は隆平にパスを投げた。
隆平はすぐに周りを囲まれ、行き場を失った。
そして慌てて、ボールを投げる。
ボールはリングの方へかろうじて飛んでいる。
このシュートが決まれば、逆転だ。
まるでブザービートじゃない。
ドラマのワンシーンよ。
最後の最後にこのシュートが決まれば……。
でも球の軌道は明らかにそれている。
期待するまでもない。
残り5秒。
最後の最後に隆平の投げた遠投。
それを隼人がジャンプ。
リバウンド。
そのままダンクシュート。
3ポイントなら、逆転だったのに。
2点だけ。
それでも同点。
相手のチームがボールを投げた地点でブザーが鳴った。
やっぱりドラマみたいにはいかない。
去年の県大会覇者に、初めての引き分け試合。
善戦だ。
隼人がヒーローだ。
誰よりも一番輝いていた。
ただブサイクぶりも光ってた。
そして乃亜が声援を送ってるのは隆平である。
試合の後、隼人が乃亜に皮肉っぽく言った。
「お前は松岡修造か!」
あれじゃ隼人もがっかりだ。
それでもチームは盛り上がっていた。
今年は県大会優勝も夢じゃない。
下手すると全国制覇も、などと夢はふくらんだ。
しかし隼人はその試合だけ出た後、また幽霊部員に戻った。