桃花はその日、一つの曲を完成させた。
そして愛子さんの手紙へのアンサーソングを書き上げた。
そしてシングルカットするはずの曲をアルバムに入れてもらうように交渉した。
いまでも愛子さんの言うことが正しいとは思えない。
でも間違ってないことだけは確かだと感じていた。
桃花の考えの中には悪人は生まれながらに悪人で、環境が悪人にしたわけじゃなく、彼は金持ちで苦労しらずでもきっと犯罪を犯しただろうという想いがある。
でも愛子さんの考え方には光があり、桃花の考え方には希望がない。
だとすれば楽天的だと感じても愛子さんの考え方のほうが正しいのかもしれない。
それは道を踏み外した少年が、出会いによって、立ち直っていく歌詞で、いうまでもなく、愛子と山ちゃんのことを歌にしたものだった。
結局それがメジャーデビュー曲に決まった。
歌詞が重い分、曲も重厚な印象をストリングスで補った。
桃花スタイルとは一変、ハードロック系の曲に仕上がった。
桃花は売れなくてもいいと思っていた。
ただその曲を愛子さんに贈りたかったからだ。
しかし予想に反して、重いと思われた歌詞も逆に反応がよく、桃花の新しい一面として評価された。
曲は桃花スタイルほどヒットしなかった。
それでも当初の予定よりはるかに大成功だったため、セカンドシングルを出すことがすでに決まっていた。
と、同時に桃花スタイルもメジャーデビューが決まった。
一気に二足のわらじをはくことになった。
忙しさは苛立ちに変わり、デートさえできない日々に爆発寸前だった。