乃亜が恋愛依存症なのは、別にいい。
私じゃないから、関係ない。
私が傷つくわけじゃないし。
傷ついたり、傷つけたり、
面倒くさいことを繰り返すなんて、私はまっぴらだ。
私は打たれ弱い。
乃亜みたいにはなりたくてもなれない。
乃亜に泣きつかれるたび、冷静に傍観してる自分を感じる。
そしてココロはいつも泣きじゃくる乃亜を慰める。
乃亜の話をとりあえず聞いてやる。
そしていつだって乃亜の味方になってやる。
だから乃亜はいつもココロに泣きついてくる。
でも私は本当に乃亜を心配してるわけじゃない。
だって乃亜はすぐに失恋から立ち直るからだ。
そしてまた恋をする。
ただ一つ乃亜が失恋するたびに、
ココロは悩みを抱え込んでしまう。
それが一番の問題だ。
いや、それだけが大問題なのだ。
本当の問題は身近にある。
誘惑に負けてしまう、自分の弱さに気がつかされてしまう。
ああ、私は弱い人間なのだ。
恋を我慢することはできるのに、
やっぱり弱い一面が浮き上がる。
ココロは乃亜のせいで、
ひとり深い深い悩みの淵に立たされてしまう。
乃亜には幼馴染の宇津木隼人がいた。
隼人とはココロとも幼馴染だ。
三人はご近所さんで、大の仲良しだ。
そしてその関係は高校生になっても続いている。
「お前、また失恋しただろう」
隼人はどういうわけか、いつも乃亜の失恋を見抜いてしまう。
「どうしていつもわかるわけ?」
乃亜はココロをキッと睨みつけた。
そのたびに疑われるのは私。
でも実は私だって気がついている。
なんで隼人が乃亜の失恋に気がつくのか。
それは付き合いが長ければ、おのずとわかること。
乃亜は失恋するたびに、激太りする。
だからだ。
「ああ、最近体重計に乗るのが怖い」
乃亜はいつものセリフを呟いた。
失恋から1週間。
太ってる自覚はあるのだ。
見た目だけだと、まあ、60キロ前後じゃないだろうか。
いつの間にか、二重あごが目に付くようになった。
乃亜が早く恋をしますように。
ココロはそう願わずにいられなかった。
乃亜には清純派でいてほしいって願ってる。
でも早く恋をしてほしい。
こう願うのは確かに変かもしれない。
だけど……。
だけどね……。
わたしはもう嫌なのよ。
乃亜の犠牲になるのは、こりごりなのよ。
なぜって、私も一緒に太るからじゃない。
私を誘わないでよ。
乃亜のやけ食いに私を誘わないで。
いつもいつも。
お願いです、甘いものはこの世から消えてしまえ。
もしも魔法が使えるなら、
この世のスイーツを消してしまいたい。
ケーキに、アイスにワッフル。
チョコに生キャラメル。
バケツプリンにフルーツ盛り。
和菓子に堂島ロール。
いい加減にしてよ。
太るんなら一人で太りなよ。
私を巻き込まないでよ。
違う、もしも魔法が使えたら。
スイーツを太らない食べ物に変えてしまう。
我慢に我慢を重ねてた麗しのスイ―ツたち。
あなたたちに何の罪もないわ。
甘いもののオンパレード。
普段付き合いを控えてる甘い誘惑たち。
乃亜は次から次に食いまくる。
やけ食いもいいかげんにしてよね。
おいしそうに私の前で食べないで。
つられて私も食べるじゃない。
いつも同じサイクル。
失恋してはリバウンド。
そして恋をして、ダイエット。
だから早く乃亜に新しい恋を見つけてほしい。
ココロは結局甘い誘惑に負けてしまった。
太っていったい何が悪いのよ。
どうせ私に恋人はいないんだし。
好きな男子もいないんだから。
愛するスイーツたちに心を奪われたっていいじゃない。
ねえ、そうでしょ、スイーツ好きの女子。
わかるよね。この気持ち。
「お前ら、ちょっと太りすぎじゃねえ」
隼人は乃亜を見て、腹を抱えて笑ってる。
隼人とは幼稚園の頃からの腐れ縁。
だから乃亜やココロを女扱いしない。
特に乃亜とは口喧嘩がたえない。
「うるさい。言われなくたって、分ってるわよ」
「少し痩せろよ」
「別にいいでしょ。誰に見せるわけじゃなし」
まあ、隼人が乃亜にからむのは好きの裏返し。
それに気がついてるのはココロだけで、隼人自身も気がついてないかもしれない。
「俺は痩せてる時のお前は可愛いと思うけどな」
「別にあんたに誉められても嬉しくないわ」
「巨大化したミニブタみたいだぜ」