「ねえ、愛子さん」
「何?」
「折角だから聞きたいの」
桃花は最後に愛子にどうしても聞いておきたいことがあった。
法学部に入ったからじゃない。
親が弁護士をしているせいでもない。
ずっと疑問に感じていたことだ。
「なぜ保護観察官を目指したの?」
「それは難しい質問ね」
「私は犯罪者の更正には悲観的にしかなれないの」
「それは再犯率が多いから?」
「そう。犯罪者の再犯率は50%以上でしょ」
「さすが詳しいわね」
「大学で習ったばかりだから」
「そう」
「保護観察官の人って不思議?」
「どうして?」
「楽天的っていうか、数字以上に人間に希望を持ってる。でもそんなに人って変われないと思う」
「でも二人に一人は立ち直るのよ」
「半分しか立ち直らないんでしょ。あれだけ世話をして、もうやりませんと誓った人があっさりと裏切るんでしょ」
「数はあくまで数字なのよ。私は彼らを数字で見てないわ。個人個人が社会に戻ってやり直す姿を思い描いてるの」
「性善説ですか」
性善説、人間はもともと善であるという考え方だ。
「そんな大それた志はないのよ。ただね、出会ったの、たまたまね」
「犯罪者にでしょ」
「そうよ、罪を犯した人にね」
なんで言い直したんだろう。
犯罪者は犯罪者じゃないんだろうか。
「環境犯罪誘因説って習った?」
環境が犯罪者を生んでいるという考え方だ。
テレビなんかで暴力シーンを見て育つのもその一つ。