乞食blog -23ページ目

ポッポさん

仲間内でポッポさんと呼ばれている人がいる。
彼はハトが大好きで、手に入れてきたパンなどを
残らずハトの餌にしてしまう。
ハトが食べた後の食料を少し自分が食べる。

ハト好きだからポッポさんと呼ばれているが、誰も彼の本名は知らない。
ハトにえさをやっている時のポッポさんは本当に幸せそうだ。
あまりにハトたちに大盤振る舞いすぎるので心配になり、
「ポッポさんが食べないとダメだよ!」
と言って、食べ物を分けてあげたりするのだが、
どうしてもハトにあげてしまう。

ハトにふるまう食べ物がないときは、
大きな声で歌をうたう。

ポッポッポー はと ポッポー

はと、のところだけメロディがなく素になる、
ちょっと特殊な歌唱法で、この出だしのところだけ何度も何度も歌う。
食べ物でなく歌のときは、ハトたちは、
みんなどこかに飛び立ってしまう。

悪いニュース

山ちゃんが大量の新聞紙を調達してきた。
これからの季節、防寒具として実にありがたい。
まめに捜せばそれなりに集まるが、
食料の調達で忙しくて、なかなか大量には集まらない。
秘蔵のカンヅメ(期限切れ)と交換に50部ほど手に入れた。

新聞紙の活用範囲は広い。
防寒はもとより、残飯を包んだり、
例の湯の花風呂の焚き付けにしたり。
本来の使い方もする。古い新聞でも、
読んでると結構ひまつぶしになるものだ。
数ヶ月前の新聞を読んでたら、気になる記事があった。

「ホームレス、少年グループに襲われ死亡」

この辺ではまだ聞いたことがないが、
明日は我が身なのは間違いない。

ふと、昔妻と見た映画の、
乞食が悪ガキに襲われるシーンを思い出した。
その頃は、まさか自分が
こんな境遇になるとは思ってもいなかった。

そんな事をしみじみ思いながら、
期限切れのチョコバーを一口かじった。

若者たち

まただ。

最近、20代か、ときには10代にしか
見えないような若い奴が、
数日間公園で寝泊りをしている。
今年で2人目だ。

5月の連休明けに現れたのは、22歳のトシ坊って奴だった。
最初は、怯えたような目つきでこっちをうかがっていたが、
ヤマさんが拾ってきたコンビニ弁当を分けてやると
貪るように食ったあと、ありがとう、と一言言って泣いた。

普段は、「若い奴は嫌いだ」というヤマさんだが、実は性根の優しい男だ。

ヤマさんや俺たちは、トシ坊の場所を作ってやって、
餌場や青シートで小屋を作る方法など教えてやった。
でもこいつが不器用で、出来上がったのはとんでもなく不細工な代物。
俺たちが笑うと、トシ坊も笑った。初めて見せた笑顔だった。

若いけど、こいつもこいつなりに、いろいろあったに違いない。
何も聞かずにいると、トシ坊はぽつりぽつりと身の上を語りだした。

高校時代にイジメにあい、20歳になるまで家から出れなかったこと。
唯一の身寄りだった母親が一年前に死に、働かざるをえなくなったこと。
新聞配達を始めたが、人間関係でうまくいかず職をなくしたこと……。

ヤマさんは言った。

「お前はまだ若いし、まだチャンスはある。
俺たちともこうして話せたんだから大丈夫だ」

トシ坊は数週間俺たちの寝床にいたが、ヤマさんの励ましもあって、
倉庫整理のバイトにつくことができ、
風呂なしながらも部屋を借りることができた。

時々、俺たちの所に酒を持ってくるが、
オレたちはわざと相手にしないようにしている。
あいつには戻ってきて欲しくない。

そんなことを思い出しながら、
数日間、飯も確保できずに弱り果てていた新参者に、
俺は無言で握り飯を差し出した。

シューズ

河川敷のシゲさんは、
いつも車輪のついた買い物カゴ(カート?)に
荷物をいっぱいいれて、街を物色してる。
今日、噴水脇にシゲさんのカートが置いてあった。
シゲさん本人が近くには見当たらない。

主人がいないカートは、なんだか寂しげにみえた。

ふとその横を見ると、何足もの靴が干してあった。
連日の雨続きで靴の乾く暇もなかったのだろう。
ここぞとばかりに一度に干した感じだ。

それにしてもシゲさん、
こんなにいっぱい靴を持っていたんだなぁ。

ただ一つ気になるのが、
今シゲさんは何を履いているんだろうか?
ということだ。

ゲンさんとVTR・後編

「ア、ソレソレ!」
ゲンさんが得意のドジョウ救いとおてもやんを
合わせたような独特の踊りで盛り上げる。
皆は転げまわって大笑いしている。

ゲンさんを、そして明るい表情の皆を
ニコニコしながら撮影するノボル君。

「ノボルのボールはコレくらいか?」
差し入れのピーナッツをかじりながら、
上機嫌のゲンさん。楽しい撮影は夕方まで続いた。

辺りが暗くなり、
「そろそろ撮影も終わりにしたいと思います。
とりあえずですが。これまでありがとうございました!」
とノボル君。 皆、ちょっとしんみりしている。

「また、すぐに帰ってきますから。
新しいカメラだから映りもキレイですよ!
ねえ、ゲンさん!」

皆ゲンさんを振り返ると、ゲンさんは泣いていた。
おいおいおいおい泣いていた。

「どうして、ワシら、こんなことになっちまったんだよぉ。
どうして、ワシら、雨に打たれて寝ないといけないんだよぉ。
教えてくれよぉ。ノボル、教えてくれよぉ。
どうして、こんなことになっちまったんだよぉ」

と泣き崩れるゲンさん。
いつも明るくて、いつも皆を笑わせてくれるゲンさんが、
泣いていた。

その時、こうりゃん先生がゲンさんの肩を抱き、
「ゲンさん、ごきゲンななめですね。少し飲みすぎましたか?」
ポツリと呟いた。

少しの沈黙の後、
「ゴキゲンか!こりゃいいや!ハハハ!」
涙と鼻水でグシャグシャになったゲンさんの顔が
笑顔でさらにグシャグシャになった。
皆も釣られて多いに笑った。

あれからノボル君は漫画喫茶でバイトを始めたそうだ。
ゲンさんも皆も新しいカメラで撮影に来るその日を
心待ちにしている。頑張って欲しい。

今日の格言
泣いたカラスがもう笑う
泣いて笑って頑張って
笑う角には福来る