こんにちは。
継承塾代表の三浦です。
今日は少し、ハンドリングについて考えてみたいと思います。
若いセラピストの皆さんは、こんな経験はありませんか?
患者さんの立ち上がりを介助して、
「さっきよりきれいに立てた!」
歩行を誘導して、
「さっきより麻痺側に乗れた!」
自分のハンドリングによって患者さんの動きが変わる。
これはセラピストにとって、とても嬉しい瞬間だと思います。
私自身も長い間、ハンドリングを学び続けてきました。
しかし最近、改めて大切だと思っている問いがあります。
それは、
「その“できた”は、誰の“できた”なのか?」
ということです。
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セラピストが上手に動かせた≠患者さんが学習した
例えば、立ち上がりが難しい患者さんがいたとします。
骨盤を前方へ誘導し、麻痺側下肢への荷重を促し、タイミングよく体幹を誘導する。
その結果、とてもきれいに立ち上がれた。
これは、一つの成果です。
でも、そこで手を離した途端に元の動きに戻ってしまったとしたらどうでしょうか。
もちろん、だからハンドリングに意味がないという話ではありません。
重要なのは、
「そのハンドリングによって、ご本人に何が残ったのか?」
だと思います。
脳卒中後のニューロリハビリテーションでは、単に運動を成立させるだけではなく、課題特異的練習、目標指向的練習、難易度調整、フィードバック、多感覚刺激など、運動学習を促す複数の原則が重要と整理されています。
つまり、
「その場でできたか?」だけでなく、「次の一回に何がつながったか?」
という視点が必要なのではないでしょうか。
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「主体性」は運動学習にも関係している
ここで興味深いのが、運動学習におけるautonomy support(自律性支援)という考え方です。
Wulfらが提唱したOPTIMAL theoryでは、運動学習を促進する重要な要素として、
① Enhanced expectancies
「自分ならできそう」という期待
② Autonomy support
「自分で選んでいる」という主体性
③ External focus
自分の身体そのものではなく、運動によって生じる効果へ注意を向けること
の3つが挙げられています。
実際、健常者を対象とした運動学習研究では、自律性を支援する条件や「できそうだ」という期待を高める条件が、保持・転移や自己効力感にプラスに働くことが報告されています。
ここは、ハンドリングを考える上でも非常に面白い視点だと思っています。
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「こう動いてください」から「どうしたら動きやすいですか?」へ
セラピストがすべてを決めて、
「ここに乗ってください」
「もっと前に行ってください」
「膝を伸ばしてください」
「力を抜いてください」
と指示し続ける。
これでも、その場では動作が改善することがあります。
でも、少し視点を変えてみます。
「今の立ち方と、さっきの立ち方ではどちらが楽でしたか?」
「足を少しここに置くとどうですか?」
「今、どちらの足で支えている感じがしますか?」
「もう一度やるなら、どうやってみたいですか?」
こうすると、患者さんは単に指示を受ける人ではなく、
自分の身体について考え、選び、試す人
になります。
もちろん、失語や認知機能、感覚障害、重症度などによって方法は変える必要があります。
しかし、
患者さんが参加できる余白をどれだけ残すか
という視点は、重症度にかかわらず私たちが考えられることだと思います。
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ハンドリングは「答え」ではなく「ヒント」
だから私は、ハンドリングを答えを教えるものではなく、身体にヒントを与えるものとして考えています。
例えば、麻痺側下肢で支えることが難しい人に対して、こちらが全部支えてしまうのではなく、
「ここに足底がありますよ」
「ここまで乗っても大丈夫ですよ」
「この方向に身体を移すと、足が働きやすいですよ」
という情報を、手を通して伝えてみる。
患者さんが反応したら、こちらも変える。
必要なら増やす。
できそうなら減らす。
そして、
10のハンドリングを8にする。
8を5にする。
5を2にする。
最終的には、手を離す。
私はこの「減らしていけること」も、ハンドリング技術の一部だと考えています。
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「自分でできた」は、その人の次の行動につながる
もう一つ大切なのが、自己効力感(self-efficacy)です。
自己効力感とは簡単に言えば、
「自分ならできそうだ」
という感覚です。
脳卒中後では、自己効力感の高さがADL、移動能力、QOLなどと関連することが複数のレビューで報告されています。なお、「自己効力感を高めれば必ず機能が改善する」という単純な因果関係まで確立しているわけではない点には注意が必要です。
さらに36件のRCTをまとめた2023年のメタ解析では、成功体験、モデリング、社会的な働きかけなど、Banduraの自己効力感理論に基づく介入が、脳卒中後の自己効力感を高める方向に働くことが示されています。
だから私は、
「セラピストが上手にできた」
よりも、
「患者さんが自分でできたと思えた」
という経験を増やしたいのです。
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「できないから助ける」だけではなく、「できる部分を探す」
若手の頃は、できない部分がよく見えます。
「骨盤が動かない」
「麻痺側に乗れない」
「体幹が伸びない」
「上肢が使えない」
もちろん、問題点を見つけることは大切です。
でも、もう一つ見てほしいものがあります。
「この人は、どこまでなら自分でできるのか?」
です。
100%できない動作に見えても、
20%は自分でできているかもしれない。
こちらが少し情報を加えれば50%になるかもしれない。
環境を変えれば70%できるかもしれない。
その「できる部分」を見つけて広げる。
これもハンドリングの重要な役割ではないでしょうか。
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「動きたいの共創」とは何か
継承塾では、
「動きたいの共創」
を理念に掲げています。
「共創」なので、セラピストだけが頑張るのでもありません。
患者さんだけに、
「もっと頑張ってください」
と求めるのでもありません。
患者さんが動く。
セラピストが感じる。
少し手を加える。
患者さんが反応する。
その反応から、また関わり方を変える。
二人で試行錯誤しながら、その人にとっての「動きやすい」を探していく。
それが私たちの考える共創です。
近年の脳卒中リハビリテーションにおけるshared decision-makingの研究でも、医療者中心の一方的な意思決定は患者の自律性を損ない得る一方、患者自身の自己効力感や自律性へのニーズなどが、リハビリへの参加を考える重要な要素として整理されています。
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若手セラピストの皆さんへ
次に患者さんへ触れるとき、
「どうやったら、この人を動かせるだろう?」
だけではなく、一度こう考えてみてください。
「この人が“自分でできた”と思えるために、私の手は何ができるだろう?」
そして動きが良くなったときには、
「今の変化は、手を離しても残るだろうか?」
と考えてみる。
この2つの問いだけでも、ハンドリングの質は変わってくると思います。
動かすための手から、動きたくなるための手へ。
そして最終的には、
その手を必要としなくなるところまで。
それが私たち継承塾が目指したいハンドリングです。
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おかげさまで、中級「なんとなく臨床」卒業コースは満席となりました。
長期コースは当面募集できませんが、継承塾の考え方やハンドリングに興味がある方は、ぜひハンドリング稽古にお越しください。
9月14日(月)|立ち上がり
担当:細川公美
参加費:9月は無料
10月|上肢
担当:船越
参加費:1,000円
会場:MiUリハ脳梗塞リハビリ大阪
参加希望の方は公式LINEより、
「ハンドリング稽古○月参加希望」
とご連絡ください。
参考文献
Wulf G, Lewthwaite R. Optimizing performance through intrinsic motivation and attention for learning: The OPTIMAL theory of motor learning. Psychon Bull Rev. 2016.
Maier M, Ballester BR, Verschure PFMJ. Principles of Neurorehabilitation After Stroke Based on Motor Learning and Brain Plasticity Mechanisms. Front Syst Neurosci. 2019.
Jones F, Riazi A. Self-efficacy and self-management after stroke: a systematic review. Disabil Rehabil. 2011.


