━提案━4 | 〓mAi*cAfe〓

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俗に言うショートショート、あるいは掌編小説と呼ばれるものを専門として書く小説家、MAIの小説ブログです。






「銀鼠、といったな?」




「(またか・・)」



私は戦場で、またその男とまみえた。



場所は違えど状況はさして変わらず、私は嫌な気分を思い出す。




「今日は一つ。提案を持ってきた」



「提案?」



「ああ。我が軍の将と剣を交えてもらいたい」


「なんのために?」




今日は、早くから口を出した。



この間よりも、嫌な予感がする。



なにかこう。足を絡め取られ、引きずり込まれるような。



そんな、嫌な予感。




「ぜひとも我が軍に入ってほしいからだ。その力が欲しい」


「この間、お断りしましたよ?」


「分かっている。だから、その勝負で最後にする」



私は無言のまま続きを促す。



「我が軍屈指の名将をお前と戦わせる。それでもし、うちの将を負かすようならば、それ以降お前を勧誘したりしないと約束しよう」



「負けたら軍に入れと。そうおっしゃりたいのですか?」



その男は頷いた。





「(悪くない話・・・そう思わせられている)」



一見、私好みの解決法だ。


一度戦って、勝てば面倒が減る。


でも。




「私がその戦いを受ける義理はありませんよ?」



大事なのは勝ち負けやその先の面倒のことじゃない。



その勝負を受ける前提で話し、まるで利は私の方にあるがごとく説き伏せようとしている。



よく考えれば、たとえ勝ってもさほど利があるわけでもなく、そして、負ければ相手にとって都合の良いようにされている。



この提案。対等じゃない。




「確かにな。だから«強引に»やることにした」



刹那、空気が一段階重くなる。



私は、剣を抜いた。



「ふふ。今じゃないさ。お前が寝入った時にでも、«勝手に»その勝負をさせてもらう。両手足を縛ってでも言うことを聞かせてやる」



「下衆野郎ですね・・そんなことされても、私は言うことを聞かないですよ」



「そのときは殺すことにする」




私は怒りをぶつけようと突進した。



二刀でもって喉元を掻き斬ってやろうとしたのだ。



しかし、相手は一足先に後ろへ跳び去り、それを構える。




「弩・・」



矢じりが頭に向けられている。


回避できる距離じゃない。




「まぁ。いつでも殺せるということは覚えておけ」



「っ!」


煮えたぎる怒りを、必死で抑えた。



今、感情的になれば、それは死を意味する。



それが分かるくらいには冷静さを保てていた。




「だから«提案»しにきた。時間と場所を指定するから、そこで我が将と戦え。勝てば勧誘しないことはしっかりと約束しよう。逆らえば死んでもらうまでのことだ」





約束?


そんなの当てにならない。



ただ、この状況を打開する方法が、咄嗟には浮かんでこない。




「・・分かりました」



不服ながらも承諾するしかない。



満足そうに鼻をならす男。



「ちなみに。何人か木陰から狙わせている。私が弩を下げたり、距離をとった後に襲おうとしても無駄なことだ」




そう釘をさし、男は弩を下ろす。



「時間は今日の夕暮れ。この先の平原で行う。せいぜいがんばりたまえ」






私は、このときほど怒りに震えたことはない。


今はその気持ちをぶつけるべき時じゃないことは明白だった。



その男が姿を消すまで待つ。




「・・その将とやらを倒して、その後で貴様を抹殺する。そう決めましたよ」





そうして後回しにでもしないと、胸の中で、心が爆発してしまいそうだった。





続く。