気になる本・気になる記事 (147

<ルポ トランプ王国> 

もう一つのアメリカを行く

金成隆一

 

<泡沫候補といわれていた時分から大統領選出までトランプ氏の取材を続けた朝日新聞記者の手記>

 

本とは関係なく以前に聞いた話ですが、驚くべきことに第2次大戦当時アメリカ中部の農民で日本と戦争をしていることを知らない人が結構いたという話があります。

 

お饅頭の外側だけしか見たことのない人がそれを食べて「どうも思ったような味がしないな」と云うのがトランプ氏が大統領に選ばれた選挙結果でした。そのお饅頭の中のあんこの正体を見せてくれたのがこの本です。この本に出てくるトランプに投票したラスト・ベルト

rust belt=錆びた地帯)の人達がトランプ氏を選んだのはまさに必然の結果だったことが分かります。

 

トランプ現象はまさにアメリカと云う国の広さと宗教や人種の多様化で幾つもの谷間で別れている山々を連想します。世界の人々が単純に考えているような一つのアメリカなど存在しないのです。アメリカの政治だけ見ていてもアメリカ人は分からない。今回の大統領選挙の結果を見て世界中が驚いたのアメリカ国民の<いろいろな心>を知らなかったということでしょう。

 

 

以前にアメリカで長く仕事をしている日本人の経営者の方数人に別々に「アメリカのナショナリズムとは何か」と聞いたことがありました。どの人もまるで打ち合わせているかのように「それは星条旗ですよ」と答えました。当時ボクは「旗一本で国をまとめられるのか?」と思いましたが、その後アメリカにおける星条旗の威力を何度も見ました。しかしこの旗が破れて中の星が幾つかにばらばらに引き裂かれるのを見る日が来るとは・・。

 

これからのアメリカはどうなるのでしょうか。ボクは政治や政策は左右に振れる振り子のようなものだと思います。1980年代のまま進化の止まった時代の再現を目指して子供じみた政治活動やっているトランプさんの行き方に未来の必然性はありません。振り子が戻るとき彼の行く道は閉ざされてラストベルトの人達と運命を共にするのか、あるいはこの人達を裏切って別の道をたどるのか・・・?

 

「こんな人物を選び出してしまう民主主義とはどうなんだ」という人もいますけど「これぞ民主主義。こんな馬鹿が出来るほど自由というのは素晴らしいではないか」とも思います。

 

それにしてもモンテスキューの三権分立の考えはすばらしいことが分かりました。大統領命令(行政)を「移民の排除は憲法違反」として簡単に無効にしてしまう裁判所(司法)、そしてオバマ・ケアの廃止を蹴飛ばした下院議会(立法)。これほど鮮やかにこの三権分立が作動するのを見たのは初めてでした。やはりチャーチルの名言は正しいのでしょう民主主義は最悪の政治形態と言うことが出来る。これまでに試みられてきた民主主義以外のあらゆる政治形態を除けば、だが」 岩波新書2017/3発行

 

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